─他にも光を使った観測装置はありますか?
はい。これは(右図左)シーロメーターと呼んでいる雲高測定器になります。原理的にはLIDARと似た装置で,レーザー光を上空に照射して,雲の底から反射光が戻ってくる時間で雲の高さを観測していて,フィンランドの会社の製品を使っています。
こちら(右図右)の滑走路視距離観測装置は,近赤外線が大気中で散乱する度合いを測定して大気の透明度を算出し,滑走路にある標識や灯火の見通すことができる最大距離を知ることができるもので,これも同社製です。
それでは,これから実際にLIDARの2号機をご覧いただきましょう。LIDARは観測現業室から離れた場所にあるので車で移動します。
─ずいぶん高い鉄塔にLIDARが設置されていますが,高さはどれくらいですか?
2号基の場合,鉄塔の部分だけで高さは約20mです。実際の観測はシェルタ装置の上にあるスキャナ装置からレーザー光を出して行なっていますので,さらに約3m上になります。あまり低い所に設置すると建物等にレーザー光が遮られて観測範囲が狭くなってしまうため,周辺の建物を考慮してこの高さに設置しています。
シェルタ装置の中に光送受信装置や信号処理装置など本体の機器が入っていて,上でくるくる回っているのがスキャナ装置です。スキャナ装置の窓からレーザー光を出して,反射してきたレーザー光もそこで受け取っています。
中にはレーザー光の光学素子としてレンズや鏡が入っているので,あまり湿度が高い状態にすると結露してしまい,雨が降っているのと同じ条件になって観測範囲が狭くなってしまいます。運用にあたってはこれを避けるため,シェルタ装置内は空調により除湿を行なっています。
スキャナ装置にも小さな除湿器が付いていますが,特に雨の時などはドアを開けっ放しにしないように注意しています。また,レーザー光を増幅する光アンプは熱が発生するため,水を循環させて冷却しています。
今,台風が近づいていますので(取材時,台風15号が接近中),先ほどもLIDARを確認してきたところです。装置はシェルタ装置に入っているのでそう簡単には壊れませんが,メンテナンス等で万一扉の鍵の閉め忘れがあると,強風にあおられて開いたドアから雨が吹き込んで装置が故障する可能性もあるので,ちゃんと鍵かかっているかを確認してきました。
日常的なメンテについては,私たち職員でやることは本当に限られていて,冷却水の補充と動作ステータスのランプを確認するくらいです。あとは年に1回,メーカーの点検を受けています。私の個人的な感想ですが,非常に安定的に使えている点では完成された装置だと思いますし,万一の場合もメーカーには迅速に対応していただいています。
─今後LIDARに要求したいことはありますか?
これは重要なことですが,先ほど言いましたとおり,このシステムは風の急変を検出すると航空機に対して危険だという情報を提供するものです。万一障害があって止まってしまえば,すぐに直して欲しいというリクエストがユーザーから来ます。航空機の安全な運航に寄与している観測装置ですので,やはり安定稼働が重要だと思っています。
(月刊OPTRONICS 2019年11月号)