ドップラー速度としては最大風速±38m/sまで1m/s単位で観測が可能で,LIDARに近づいてくる速度はマイナスで,遠ざかっていく速度はプラスで表現されます。航空機にとって高度が低いところでの風の急変は墜落などの重大な事故の原因となる可能性があるので,特に仰角0.7°のPPI観測は1号機2号機とも2分に1回必ず行ないます。
特に危ないのは着陸直前に起こる風の変化です。急激な風の変化をウインドシアーといいますが,そのうち積乱雲からの下降気流が地面にぶつかって四方八方に吹き出す現象をダウンバーストといい,風の広がりの規模が小さいものをマイクロバーストと呼んでいます。一般的に広がりの規模が小さいほうが風が強いと言われています。
これらの現象は,東京国際空港でも検出されることがあります。マイクロバーストは発達した積乱雲の下に出ることが多いので,どちらかというとLIDARよりもDRAWで捉えられる事が多い気象現象です。
航空機は向かい風だと揚力が増え,追い風になると揚力が減ります。例えば着陸しようとする航空機と滑走路の間にマイクロバーストがあった場合,マイクロバーストの中心までは向かい風なので揚力が増して機体は上昇しようとします。
また,マイクロバーストの中心付近は,下降気流により高度が下がり,中心を過ぎたところでは今度は追い風になって揚力が失われ高度がさらに下がってしまいます。このため進入コースから外れてしまう危険が大きくなります。
これとは逆に風がぶつかり合う場合もあり,ぶつかり合っているところを結んだ線をシアーラインと呼んでいます。航空機が降りようとしているところにシアーラインがあった場合,はじめ追い風だったのが急に向かい風になれば突然揚力が増えますし,こうした風が横から吹けばさらに着陸が不安定になります。
どちらも非常に危険な現象なので,検出すると自動的に通報する仕組みになっています。こうしたマイクロバーストやシアーラインの検出をLIDARやDRAWを使って行なっているわけです。
─これ(右図)が実際のデータですね
データは観測現業室のモニターで見ることができます。LIDARに対して近づいてくる風,遠ざかる風のドップラー速度を色で表しています。ポイントごとの風速と風向きも推定して矢羽根記号で表しています。今日はそんなに風の乱れはないですね。10m/sないくらいの南寄りの風が均等に吹いていて穏やかなので,離着陸に大きな支障は無いと思います。
LIDARはシェルタ装置と呼ばれるコンテナの様な箱の中に装置の殆どが入っていますが,そこに設置してある信号処理装置と呼ばれるサーバーで最終形のデータまで完成させて,観測現業室にある配信サーバーに空港内の光回線を通してデータを送っています。航空局や航空会社に対してはこの配信サーバーよりデータ配信を行なっています。
また,信号処理装置のWebサーバー機能により,観測現業室や本庁にあるPCのWebブラウザでデータを表示する事ができます。信号処理装置には高性能なサーバーが使われていて,こうした観測画像を作っている他に機器状態の監視や制御もしていて,観測データと同様に観測現業室や本庁の端末でも遠隔で監視や制御ができるようになっています。