─今後,社会実装に向けてどういったことを予定していますか?
直近でいうと,来年のオリンピック・パラリンピックに向けたシニアカーの自動走行デモをスズキがお台場でやる予定で,その機能開発を我々のほうで行ないます。
法的な制限はまだありますが,シニアカーに関してはあの状態で実証実験ができることになりましたので,あとは技術を高めて社会に実装するというところにもっていきたいですね。ただ,シニアカーで売り出すとなると価格に全部跳ね返ってくるので,そんなにセンサーは載せられません。ベロダインも高価なので,カメラだけにならないかといった要望もあります。
自動車だったらともかく,本体が40万円のシニアカーに50万円のLiDARはあり得ませんし,車いすならなおさらです。やるとしたら,LiDARの価格を下げるのもそうですが,個人が所有するのではなくてシェアリングという方法もあります。例えば,お年寄りが病院に行きたい時に家まで来て,そこから病院に乗って行く。要するに誰も乗らずに自動運転で家まで来てくれて,使い終わったら帰ってくれる,そんな使い方もあるかと思います。
ただ,人が乗っていないモビリティは歩行者ではありません。日本ではまだ無人の乗り物は走っていけないことになっているので,法改正も必要になってきますし,無人で走っていた時の事故の保証といったことも考えないといけません。
そういうところに風穴を開けるためにも,技術的にはかなりのことができるようになっていることをアピールして,それを走らせてもいいという,法律を含めた社会的な認知,周りの人がそういうのを受け入れてくれる環境,そういうところも課題になってくるかと思っています。
─車いすの自動運転技術と車の自動運転技術に接点はありますか?
我々がやっているのは車ではカバーできないところですし,今のところあまりないですね。自動車の自動運転と,車いすのような歩行者用モビリティの自動運転との決定的な違いというのは,自動車は白線がひいてある車道の左側を通行するという構造化された環境,明確なルールがあります。一方で車いすは歩道を走りますが,歩道では歩行者のどちら側をすり抜けても構いませんし,自転車が走っていたりベンチが置いてあったりして,基本的にルールが明確ではありません。
さらに街路樹で上空が覆われていたり,屋根が付いていたりすればGPSも入りません。自動車なら屋外だけ自動運転すれば良くても,例えば車いすでショッピングモールや病院に入るとGPSは使い物にならないので,高価なLiDARを使う必要が出てきます。
他にも,例えばバス停まで行ったら,バスにどうやって車いすを載せるのかといった,既存の公共交通機関とのコネクトも必要になってきます。バス停に乗り捨てるわけにもいかないですし,そこで何かに乗り換えるにしても,今度は無人で帰っていく必要が出てきます。
─LiDARに対して要望はありますか
性能的には今で十分ですので,やっぱり一番のネックは価格ですね。カメラを使った研究もしていますが,例えば建物から出た時にハレーションを起して,画が真っ白になったこともありますし,まだLiDARにはかなわないというところは正直ありますね。
ただ,先ほども言いましたように,カメラにはカメラでしかとれない情報というのもあります。自動運転に必要になってくる技術としては,周りの人や前から歩いてくる人がこのモビリティに気付いて歩いているかどうかは,LiDARではわかりません。カメラでその人の顔をトラッキングして初めて,こっちに気づいているかどうかの判定ができます。
我々としては価格が下がってくることを想定してLiDARを使って研究をしていますが,もし価格が下がらなかった場合はカメラも重要になります。下がる下がると言われながら,思ったほど下がっていないですからね(笑)。
(月刊OPTRONICS 2019年9月号)