光学センサーが実現するダイバーシティ─より身近な自動運転技術の実現へ

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写真2 	NEDOプロで使用した車いすとAIによる安全走行可能領域の検出結果例(提供:阪野氏)
写真2  NEDOプロで使用した車いすとAIによる安全走行可能領域の検出結果例(提供:阪野氏)

例えば去年まで,NEDOプロジェクトでAIを活用して安全性向上を目指すスマートモビリティの技術開発をやっていました。これは自動運転というわけではありませんが,先ほど言いましたようなお年寄りが操作するモビリティ,要するにジョイスティックで操作する電動車いすや,ハンドル形電動車いす,いわゆるシニアカーを対象としたものです。

最近,このシニアカーが道から転落したり,歩行者扱いなのに車道を走らせる人がいたりして問題になっています。最近はお年寄りの自動車事故の問題もありますが,シニアカーにはアシストブレーキのような補助機能は一切付いていません。認知機能や運動機能が落ちて免許を返納したお年寄りが乗るのに,それではちょっと危険だということで,AI等も使って安全性を向上させようという開発が始まりました。

この時は車いすにカメラだけを取り付けて,その映像で危険を判定するということをやっていました(写真2)。AIで画像を入力した時に,ここは安全ですよ,危険ですよという判定をするためには,まず先に学習させておく必要がありますが,この学習のデータを作るというのが一番大変な作業です。

そこで我々は実際の駅のロータリー周辺を3次元計測でモデル化してコンピューターに取り込みました。いったんそのデータができれば,あとは照明条件を変えたり,天気を変えたり,建物や木も入れ替えたりなんでもできるので,サイバー空間中で仮想的なシミュレーションが可能になります。

この方法が良いのは,現地に行かなくても3次元の計測ができてしまうところです。例えば仮想的な車いすにLiDARを乗せてこの中を走らせれば,サイバー空間上で学習データを作り上げられます。その学習データを使えば,歩道で段差がなく,走ることができる場所かどうかという判定ができるようになります。これにより,毎回,現地へ行って実際のデータを採らなくてもデータが採れます。

写真3 サイバー化した柏の葉駅周辺のデータを用いた人混在環境のシミュレーション画像(提供:阪野氏)
写真3 サイバー化した柏の葉駅周辺のデータを用いた人混在環境のシミュレーション画像(提供:阪野氏)

仮想空間なら,例えば人がたくさんいる中を走らせてみて,ぶつかるかどうか判定するシミュレーションも行なえます(写真3)。実際に車いすで人混みを走ると,だいたいみんな避けてくれますが,その時の人の行動のデータが十分にそろっていません。今は人と人とが干渉する時のデータをそのまま車いすに置き換えているので,実際には人の行動は違ってくるはずです。そういったデータもこうしたシミュレーションで補うことができます。

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