究極のユーザー目線による装置開発─二光子顕微鏡を組み上げる元臨床研究医

◆西村 智(ニシムラ サトシ)
自治医科大学 分子病態治療研究センター 分子病態研究部教授

2007年 東京大学大学院医学博士課程 修了
1999年 東京大学附属病院内科研修医
2001年 東京大学付属病院非常勤医員
2006年 日本学術振興会特別研究員DC2
2007年 日本学術振興会特別研究員PD
2008年 東京大学循環器内科特任助教 JSTさきがけ研究員兼任
2008年 東京大学医療ナノテク人材育成ユニット特任助教
JSTさきがけ研究員兼任
2009年 東京大学システム疾患生命科学による先端医療技術
開発拠点特任助教
2011年 東京大学システム疾患生命科学による先端医療技術
開発拠点特任准教授
2013年 自治医科大学 分子病態治療研究センター
分子病態研究部教授

その研究室に足を踏み入れると,所狭しと並ぶ実験機材や工作機器,様々なパーツ類の物量に圧倒される。「しまい込むと分からなくなるので,なるべく見えるように出しています」と笑う,この部屋の主で自治医科大学教授の西村智氏は,医学部出身でありながらイメージング装置の開発を行なう,異色のキャリアの持ち主だ。

元々は自身の研究のために行なっていたという開発だが,やがて8Kや二光子顕微鏡といった,最先端の機材を用いたライブイメージングに関わるようになる。

そこまでくると個人の手には負えないと考えそうなものだが,なんと西村氏は自ら二光子顕微鏡を分解し,改造を施して再び組み立てるという,にわかに信じがたい方法によって成果を出してきた。

アイデアとそれを具現化する技術の両輪が揃ったとき,研究の効率は最大化する。もちろん誰もができる話ではないが,得られるヒントもあるはずだ。

─先生のお仕事について教えてください
装置や機材が所せましと並ぶ研究室
装置や機材が所せましと並ぶ研究室

僕は医学部出身で,もともと循環器内科で臨床研究をしていました。そこでカルシウムインジケーターを使った蛍光測定や,光を使って細胞のナノニュートンの力を測るような計測をしていたのですが,その頃から他の人がしないような計測では,自分で装置や顕微鏡を作ったりしていました。

その後,生物の体内を生きたまま観察する研究を始めると,顕微鏡も目的に合わせて,共焦点系ユニットとイメージンテンシファイアやEMCCDを組んだり,二光子顕微鏡とフェムト秒レーザーのシステムを自分で作ったりするようになりました。僕はラボの引っ越しをする度に顕微鏡のシステムを組んでいて,二光子顕微鏡ならここに来るまでに,ゼロから5回くらい作っています。

もちろん,医学生物学研究者として論文も書いていましたが,有名な雑誌に掲載されても問い合わせのほとんどは手法に関する内容ばかりです。中でも一番聞かれたのが実験で使っているネズミの餌の型番です(笑)。つまり,世の中の人は誰かが立てた仮説なんかよりも技術を知りたいんです。

そうしたこともあって,人のラボの装置をセットアップしたり,研究の手法論のところだけを作ったりする方に仕事をシフトしていきました。そのうち,それまで僕が技術を受ける側だった,有名なメーカーの方が開発中のプロトタイプを持ってくるようになって,それをここでテストしたり作ったりすることが増えてきました。

現在は企業がリリース前の製品を持ってきて,使い方やアピールといった,世に出すプロセスを手伝ったり,僕がゼロから光学の結像の理論を自分なりに考えて,プロトタイプを作ってリアルデータを取ったりするような仕事もしています。

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