セクション5:シャックハルトマン波面センサー
シャックハルトマン波面センサー(Shack-Hartmann WaveFront Sensor;SHWFS)は,光学部品や光学系の透過波面や反射波面誤差を高いダイナミックレンジと精度で測定する。SHWFSは,その使いやすさや応答性の速さ,相対的に安価,またインコヒーレントな光源を使える点から,広く使われるようになった。
光の波面は,一定の位相をもつ波の面である。波面は伝搬方向に対して垂直をなす面内にあり,平行な光は平面波であり,収束や発散する光は曲面波を有する(図9)。光学部品に収差があると波面誤差につながり,透過または反射波面に歪みが生じる。透過波面誤差や反射波面誤差を分析することで,光学部品の収差や性能を決定することができる。
SHWFSは,同じ焦点距離をもつマイクロレンズまたは小型レンズのアレイ状素子を利用して入射光の各部分をディテクター上に集光する。ディテクターは小さなセクター毎に分割され,各セクターが各マイクロレンズに対応している。入射波面が完璧な平面波であると,マイクロレンズアレイの中心点基準間隔と同じ間隔をもつ焦点スポットのグリッドが形成される。もしいくらかの量の波面誤差をもつ変形波面がSHWFSに入射すると,ディテクター上でのスポットの位置が変化する(図10)。焦点スポットのずれや変形,或いは強度の損失は,各マイクロレンズでの波面の局所的な傾きで決定される。個々の傾きを用いることで,全体波面を再構築することができる。
光学干渉法と比べた場合のSHWFSの利点の一つに,ダイナミックレンジが実質的に波長と無関係で,より高い柔軟性を持つ点があげられる。とはいえ,SHWFSのダイナミックレンジは,各マイクロレンズに割り当てられたディテクターセクターによって制限される。波面の正確な再構築を実現するため,各マイクロレンズの焦点スポットは,該当するセクター上で最低10ピクセル分をカバーしなければならない。焦点スポットによりカバーされるディテクターの面積が大きいと,SHWFSの感度はより高くなる反面,ダイナミックレンジは狭くなってしまうというトレードオフがある。一般的に,マイクロレンズの焦点スポットは,ディテクターの該当するセクターの半分以上をカバーすべきではなく,これを行うことによって感度とダイナミックレンジ間の合理的な落としどころを保証する。
アレイ内のマイクロレンズの数が増えると,空間分解能が向上し,マイクロレンズの開口に対する波面スロープの平均化を少なくできるが,各マイクロレンズに割り当てられるピクセル数が少なくなる。マイクロレンズが大きくなると,感度がより高くなり,ゆっくりと変化する波面に対してより正確な測定が行えるが,複雑な波面をサンプリングするのに十分とは言えず,再構築された波面が人工的にスムージングされた結果になる。
セクション6:分光光度計
分光光度計は,光学部品の透過率と反射率を測定するもので,光学用コーティングの性能を特性化するのに必須なものである。典型的な分光光度計は,広帯域光源,分光器,ディテクターで構成される(図11)。光源からの光は,分光器の入射側スリット内に送られ,分光器内の回折格子やプリズムといった分散素子が入射光を構成波長成分に分解する。分光器の出射側スリットは,スリットを通り抜ける狭い帯域以外の波長全てを遮断し,通過したその狭い波長帯の光だけが被検対象のオプティクスに照射される。回折格子またはプリズムの角度を変えると出射側スリットを通り抜ける波長が変化するので,試験する波長帯を細かく調整することができる。被検対象のオプティクスで反射,或いは透過した光はディテクター上に向かい,オプティクスの所定の波長における反射率や透過率が決定される。
光源は,誤った読み取りを防止するために極めて安定し,広い範囲の波長に対して十分な強度を持っていなければならない。タングステンハロゲンランプは,その長い寿命と一定の輝度を維持する能力から,分光光度計用に最も一般的に用いられる光源の一つになる。非常に広い波長域が必要になる場合は,対応波長域の異なる複数の光源を用いることもある。
分光器のスリットの幅が狭くなるほど,分光光度計のスペクトル分解能が高くなる。しかしながら,スリットの幅を狭くすると通過するパワーも減ることになり,データ取得にかかる時間やノイズの量が増えるかもしれない。
分光光度計に用いられる光ディテクターは,対応する波長範囲に応じて様々なものがある。光電子増倍管(PMT)や半導体フォトダイオードは,紫外,可視および赤外検出用に一般的に用いられる光ディテクターである。PMTは,光電面を利用して他のディテクタータイプでは決して得ることができない感度を実現する。光が光電面上に入射すると光電子を放出し,更に他の二次電子を放出し続けるため,高ゲインになる。PMTの高感度性は,低照度光源や高いレベルの正確性が要求される場合に有益になる。アバランシェフォトダイオードのような半導体フォトダイオードはPMTの廉価版と言えるが,PMTよりも雑音が多く,低感度になる。
大抵の分光光度計は,紫外,可視あるいは赤外スペクトルでの使用向けにデザインされているが,なかには10−100 nmの波長をもつ極端紫外(EUV)など,要求の更に厳しいスペクトル領域で動作する分光光度計がある。EUV分光光度計は,入射EUV放射を効率的に分散させるために,極めて狭い格子間隔の回折格子を一般に使用している。
セクション7:群遅延分散の測定
反射型や透過型の光学部品の群遅延分散(GDD)の測定には白色干渉計が用いられる。GDDは,超短パルスレーザーの短い持続時間が光媒体で大きな色分散につながることから,超短パルスレーザー用オプティクスの性能に大変重要である。
大抵の干渉計は,レーザーの長い可干渉距離が干渉縞の観察を容易にすることから,単色レーザーを光源に利用するが,白色干渉計は分散を解析するために広帯域照明を利用している。白色干渉計は,一般的にマイケルソン干渉計の構成にして,被検光学部品を一方のアーム中に,また参照用光学部品を他方のアーム中に配置する(図12)。参照用光学部品をある範囲内で直進移動することで,参照用アームの長さを変化させることができる。
干渉図形は,2つのアームの光路長が同一になった時の信号として現われ,この状態になる時の両者間の位置は波長に依存する。これにより,異なる波長ごとの光路長が正確に求められるようになり,被検光学部品のGDDが明らかになる(図13)。
信号は,光ディテクターかスペクトロメーター(分光器)で検出される。光ディテクターは,時間別の異なる波長の信号を統合し,フーリエ変換アルゴリズムを取得干渉図形に適用することで,波長依存のGDDや色分散を明らかにする。光ディテクターの代わりにスペクトロメーターを用いると,取得データのフーリエ変換の必要性を取り除ける。
光ディテクターベースの白色干渉計の感度は,参照用オプティクスを移動するのに用いるステージのステップサイズに依存するが,スペクトロメーターベースのシステムの場合は問題にはならない。
本連載は本号が最終となります。本連載をこれまでお読みいただき,誠にありがとうございました。
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