1. はじめに
超短パルスレーザーシステムの多くの光媒体に導入されている正のチャープもしくは分散は,負の分散を特徴とする高分散ミラーなどの光学部品を使用して補償できる。これにより,短波長での位相速度が長波長でのそれよりも高くなり,正のチャープが相殺されて,パルス持続時間を短くできる(図1)。なお分散についての詳細と,それが超短パルスレーザーシステムにどのように大きな影響を与えるかについては,前号までの「レーザーグレード基板の特性」と「超短パルスの分散」をご参照いただきたい。
セクション1:かつての分散補償方法
高分散ミラーが市場に出される以前は,プリズムや回折格子,Gires-Tournois Interferometer (GTI)ミラーやチャープミラーをはじめ,いくつかの異なるタイプのパルス圧縮用オプティクスが超短パルスシステムに伝統的に用いられてきた。
分散プリズムと回折格子
超短パルスレーザーシステム内で正のチャープを相殺し,パルス持続時間を短縮するために,負の分散を持つプリズムや回折格子を用いることができる(図2)。分散プリズムは,広いスペースを占める大掛かりなセットアップが必要になりがちである。分散プリズムと回折格子はどちらも通常は低スループットで,アライメントや配置する間隔で特性が大きく変わり,三次分散の多さから時間的な広がりを増大させる。
Gires-Tournois Interferometer(GTI)ミラー
高分散ミラーの機能を理解するためには,Gires-Tournois Interferometer(GTI)ミラーを理解する必要がある。Gires-Tournois干渉計は,高反射GTIミラーを使用して色分散を生成する定在波共振器である。GTIミラーによって反射される光の位相は,ミラーのコーティングにおける共振によって波長依存性があり,GTIミラーが角度依存の負のGDDを発生させ,超短パルスレーザーの共振器分散制御を可能にする。しかしながら,GTIミラーは高次分散を招き,限られた波長域でしか負のGDDを発生しない。
チャープミラー
高分散ミラーを完全に理解するには,チャープミラーを理解することも重要である。共鳴効果を使用して負のGDDを提供するGTIミラーとは異なり,チャープミラーは,ミラーのコーティング内での波長依存の浸透深さによって制御された負のGDDを発生させる。一般的な誘電体膜ミラーは特定の一波長を反射するようにデザインされているが,チャープミラーはそれぞれのコーティング層が異なる波長を反射するようにデザインされている。コーティング層の厚さは,ミラーの外側面から最下層に向かって増加していき,長波長がコーティング層のより深部にまで浸透し,短波長よりも長い光路長を辿ることで,正の分散を相殺する(図3)。
残念ながら,この単純な誘電体構造での層の厚さの違いに起因するシャープな遷移は,波長を関数とした群遅延分散(GDD)特性に変動を与える(図4)。
セクション2:高分散ミラー
高分散超短パルスミラーは,チャープミラーのそれと同様,波長依存の浸透効果と,multi-GTIとして知られるコーティング内の多重共鳴効果を組み合わせている。この組み合わせは,従来のGTIミラーの帯域幅制限とチャープミラーのGDD変動の両方を抑える。高分散超短パルスミラーは,高スループットで三次分散ゼロ,また高次の負のGDDといった特性もあるため,超短パルスレーザーシステムでのパルス圧縮用オプティクスに理想的になる(図5と図6)。
従来のチャープミラーやGTIミラーを超えるいくつかの利点により,高分散超短パルスミラーは,超短パルスレーザーシステムのセットアップに必須の素子なった。同ミラーは,高次の負のGDDを必要とする高エネルギー超短パルス生成でのアプリケーションに大きなメリットがある。このミラーは,分散ミラーの反射回数を増やすことなくパルス圧縮を可能にし,アライメント感度やラウンドトリップ損失を制限する。
■Highly-Dispersive Mirrors
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