オプティカルコーティング(5)

表4 一般的な成膜技術の主要パラメーターがアプリケーションに高度に依存する各状況に合わせてどれが最適な技術なのかを表す(E-Beam IAD:イオンアシスト電子ビーム真空蒸着,IBS:イオンビームスパッタリング,APS:先進的プラズマスパッタリング,PARMS:プラズマアシスト反応マグネトロンスパッタリング)
表4 一般的な成膜技術の主要パラメーターがアプリケーションに高度に依存する各状況に合わせてどれが最適な技術なのかを表す(E-Beam IAD:イオンアシスト電子ビーム真空蒸着,IBS:イオンビームスパッタリング,APS:先進的プラズマスパッタリング,PARMS:プラズマアシスト反応マグネトロンスパッタリング)

8. コーティング技術
光学用コーティングの蒸着には,イオンアシストの電子ビーム真空蒸着やイオンビームスパッタリング,先進的プラズマ蒸着やプラズマアシスト反応マグネトロンスパッタリングを始め,いくつかの物理気相成長(PVD)法がある(表4)。全てのアプリケーションに対して理想的選択となる単一成膜法というのはなく,それぞれが独自のメリットを有し,特定の使用ケースや一部重なる使用ケースに対して最善なものとなる。

イオンアシスト電子ビーム真空蒸着
イオンアシスト電子ビーム(IAD e-beam)真空蒸着法は,真空チャンバー内の蒸着材料を電子銃衝撃を用いて蒸発させる。蒸発によって光学面上に付着・堆積した蒸着材料は,設計した膜厚の均質で低応力な層になる。イオンアシスト電子ビームによるコーティングは,紫外(UV)領域において低損失で,近赤外(NIR)領域においては高レーザー誘起損傷閾値(LIDT)になる特徴がある。

他の成膜法に比べても薄膜設計に対する柔軟性が高く,利用可能な薄膜材料の範囲は一番広くなる。イオンアシスト電子ビーム真空蒸着機は,他の方法よりも低コストで成膜でき,より大きなコーティングチャンバーサイズにも対応する。このコーティング技術は,性能よりも柔軟性やコストを最優先事項にする状況で理想的となる。なおイオン源に実際に何を用いるかに依存して,さほど緻密ではなく,スムーズさや反射率で制限され,特性の再現性がさほど高くない膜になる可能性もある。正確な膜厚制御は,イオンビームスパッタリングやマグネトロンスパッタリングを用いる時に比べて課題になる。そのため,イオンアシスト電子ビーム真空蒸着法では,例えば1064 nmで99.95%の全体透過率が得られる反射防止用Vコートのような極度に低反射,あるいは高反射なコーティングを作ることができない。

図15 IBSは高エネルギーイオン銃を利用してターゲット粒子をはじき飛ばし,回転する基板上に成膜する高度に制御可能なプロセスで,非常に正確で再現可能な光学薄膜になる
図15 IBSは高エネルギーイオン銃を利用してターゲット粒子をはじき飛ばし,回転する基板上に成膜する高度に制御可能なプロセスで,非常に正確で再現可能な光学薄膜になる

イオンビームスパッタリング
イオンビームスパッタリング(IBS)は,非常に高い光学品質と安定性を持つ膜を作り出す高度に再現可能な成膜技術である。IBS工程中,イオンの高エネルギービームが所定の薄膜材料ターゲットに衝突し,ターゲットの粒子を「スパッタ」してはじき飛ばす(図15)。このターゲット粒子は,大きな運動エネルギー(〜10–100 eV)を与えられて光学部品表面に衝突・付着し,緻密で硬く,滑らかな膜を形成させる。

IBSの主たるメリットの一つに,成膜レートや酸化レベル,エネルギー入力を始めとするパラメータの正確な監視と制御が行え,高度に再現可能な成膜が行える点がある。高速な基板回転も卓越した膜厚層精度に貢献する。99.9%を超える反射率を持つ超低損失ミラーや超短パルスレーザーアプリケーション向けのチャープミラー,またとても急峻な波長転移特性を持つフィルターを始め,要求の最も厳しい光学用コーティングをIBSで作ることが可能である。

他の成膜技術と比べても,IBSコーティングの性能は温度や湿度といった環境ファクターに影響を余り受けない。しかしながら,より高い応力やUV領域における損失を始め,IBSコーティングにはいくつかの弱点がある。成膜レートの遅さや対応するチャンバーサイズが小さくなってしまうことも,他の成膜法に比べて相対コストをかなり高くし,高性能が求められる特定のアプリケーションだけへの適用に限定させる。

先進的プラズマスパッタリング
先進的プラズマスパッタリング(Advanced Plasma Sputtering;APS)は,イオンアシスト(IAD)電子ビーム真空蒸着の修正バージョンで,先進的なオートメーションプロセスに対応している。APSは,薄膜材料を蒸着するのに,イオンビームの代わりに熱陰極直流グロー放電プラズマを利用する。コーティングチャンバー全体をプラズマで充填し,ターゲット粒子をはじき飛ばして光学面上にそれを蒸着させる。

APSは,滑らかで緻密,また硬い膜になり,IAD電子ビーム蒸着よりも安定した光学特性を提供しながら,同成膜法の強みである高次元の柔軟性はそのまま維持する。APSは,IAD電子ビーム真空蒸着と同様の価格構造で大量に成膜することもでき,要求の更に厳しい性能要件の膜を多量に作る時により好まれる。しかしながら,APSの応力はより高く,UV領域での損失はより多くなり,IAD電子ビーム真空蒸着に比べるとわずかに高コストにつながる反復工程開発を要する。多くの側面において,APSはマグネトロンスパッタリングと同様に,IAD電子ビーム真空蒸着とIBSの中間的ソリューションとみなされることがある。

プラズマアシスト反応マグネトロンスパッタリング
プラズマアシスト反応マグネトロンスパッタリング(Plasma Assisted Reactive Magnetron Sputtering;PARMS)は,プラズマ生成ベースの別の成膜技術である。APS中に生成されるグロー放電プラズマをコーティングチャンバー全体に充填する代わりに,磁界がターゲット付近にだけそれを制限させる。プラズマが正イオンをターゲット上に加速させてターゲット粒子をはじき飛ばし,光学面上に蒸着させる。

PARMSは,プラズマの制限によって相対的に低圧のチャンバー内で高効率に稼働する。この低圧稼働は,セットアップに要する時間を短縮し,大量の光学部品のより経済的な成膜を可能にする。PARMSで形成される薄膜コーティングは,コーティングの化学量論を改善する反応性ガスの付加によって,硬くて緻密なものになる。PARMSは高度に再現可能だが,IBSほどではない。しかしながら,PARMSはスループットが高く,高価格・高性能なIBS成膜法とIAD電子ビーム真空蒸着などの経済的成膜法間の中間的位置づけとして魅力的な存在になる。PARMSは,相対的に高い光学性能と大量生産時のスループットの技術バランスから,蛍光フィルターの製造によく用いられている。




■Optical Coating 5
■Edmund Optics Japan Co., Ltd.

<お問合せ先>
エドモンド・オプティクス・ジャパン㈱
TEL: 03-3944-6210
E-mail: tech@edmundoptics.jp
URL: www.edmundoptics.jp

同じカテゴリの連載記事

  • 図7 シングルショット試験のサンプルデータ
    レーザー誘起損傷閾値(LIDT)⑶ 2021年10月01日
  • レーザー誘起損傷閾値(LIDT)⑵
    レーザー誘起損傷閾値(LIDT)⑵ 2021年09月01日
  • レーザー誘起損傷閾値(LIDT)(1)
    レーザー誘起損傷閾値(LIDT)(1) 2021年08月01日
  • 図1 高分散ミラーや他のパルス圧縮用オプティクスは負の分散を発生させ,超短パルスレーザーが光媒体を透過する際に生じる正の分散を打ち消す
    高分散ミラー 2021年07月01日
  • 超短パルス分散
    超短パルス分散 2021年06月01日
  • 図12 中心波長(Center Wavelength)と半値全幅(Full Width at Half Maximum)の図解
    オプティカルコーティング(4) 2021年04月01日
  • 図9 誘電体膜のHRコーティングは,フレネル反射の増加的干渉(Constructive Interference)を利用して金属膜反射鏡のそれよりも高い反射率を実現する
    オプティカルコーティング(3) 2021年03月01日
  • オプティカルコーティング(2)
    オプティカルコーティング(2) 2021年02月01日