オプティカルコーティング(4)

偏光素子
偏光素子は,特定の光の偏光を取り出し,他の全てを取り除くのに用いられる。偏光素子には数多くの種類があるが,薄膜タイプの偏光素子だけが偏光の選択のためにオプティカルコーティングを利用している。同タイプの偏光素子は,コーティングの付いたガラス偏光板かキューブ型偏光ビームスプリッターとしてラインナップされている。薄膜タイプの偏光素子は,広い範囲の波長に対して機能し,高いレーザー誘起損傷閾値がある。

非偏光の光は,めまぐるしくランダムに変化するp偏光とs偏光の組み合わせになる。理想的な直線偏光素子は,2つの直線偏光の一つのみを透過し,元の非偏光強度I0を半分に減らす。
強度I0を持つ直線偏光の光に対して,理想的な偏光素子(I)を透過する時の強度はマリュスの法則で表すことができる:

式(9) ⑼

ここで,θは入射直線偏光軸と偏光素子の偏光軸間の角度になる。両軸が平行の場合は100%の透過率が得られるが,直交しているクロスニコル(2枚直交位)配置では透過率が0%になる。もっとも現実世界のアプリケーションでは,透過率が完全な0%になることはないため,クロスニコル時の実際の透過率の大きさを表す消光比を用いて偏光素子を特性化する。消光比(ρp)は,偏光素子の最大透過率(T1)に対する同素子の最小透過率(T2)の比として表される:

式(10) ⑽

偏光ビームスプリッターと無偏光ビームスプリッター:ビームスプリッターは,入射光を所定の比率で2つの独立したビーム光路に分離する。偏光ビームスプリッターは,入射光をs偏光の反射ビームとp偏光の透過ビームに分離するようデザインされたコーティングが施されている。非偏光の光を50/50の比率で分離したり,あるいは光アイソレーターなどの偏光分離アプリケーションに用いられる。無偏光ビームスプリッターは,入射光が持つ元々の偏光状態を維持しながら光を所定のR/T比で分離する。

7. 光学フィルター用コーティング
光学フィルターは,画像の明るさの調整や像コントラストの改善,特定波長の透過や反射,また一つの光路を波長に応じて2つの独立した光路に分割するといったことに用いられる。鍵となる専門用語やフィルターの種類を理解することは,アプリケーションに合った正しい光学フィルターを選定する上で不可欠となる。


主要な専門用語
今日調達可能な光学フィルター各種の話に入る前に,主要なフィルターの専門用語を確認しておきたい。いずれのフィルターも,製膜工程や特定波長の透過,吸収,反射の過程は異なるが,光学パラメータ(仕様の定義)は多くの部分において共通となる。

図12 中心波長(Center Wavelength)と半値全幅(Full Width at Half Maximum)の図解
図12 中心波長(Center Wavelength)と半値全幅(Full Width at Half Maximum)の図解

中心波長(CWL):中心波長(Center Wavelength:CWL)は,ピーク透過率の半値(50%)をとる2つの波長の中間に当たる波長を指し,半値全幅(Full Width at Half Maximum:FWHM)の中間に当たる波長を指す。干渉フィルターの場合,ピーク透過率の波長と中心波長とは一致しないのが一般的。CWLとFWHMの関係を図12に示す。


バンド幅:バンド幅は,フィルターを透過した入射光エネルギーのスペクトル領域を規定するのに用いられる。バンド幅は,半値全幅(Full Width at Half Maximum:FWHM)とも呼ばれる(図12参照)。


ブロッキング領域:ブロッキング領域は,フィルターによって減衰される(透過を遮断される)入射光エネルギーのスペクトル領域を規定するのに用いられる。遮断する透過率の度合いは,光学濃度のスペックを用いて通常規定される。


光学濃度(OD):光学濃度(Optical Density:OD)は,フィルターの透過遮断性能を規定し,透過する光のエネルギー量に関連する。光学濃度の値が高くなるほど,透過率の値が低くなり,反対に光学濃度の値が低くなるほど,透過率の値は高くなる。

式(11) ⑾

式(12) ⑿

光学フィルターのタイプ
光学フィルターの最も一般的なタイプに,ダイクロイック,ロングパス,ショートパス,バンドパス,及びノッチがある。レーザーオプティクスアプリケーションに用いられるフィルターは,規定したレーザー誘起損傷閾値(LIDT)を実現するため,清潔性や工程管理に注意して製造されなければならない。フィルターは,一般的にウインドウやミラーよりも低いLIDTを有する。なぜなら,コーティングデザインがより複雑で,より多くの層で構成され,また吸収がより大きくなるからだ。

図13 特定波長域を反射し,それ以外の波長は透過するダイクロイックフィルターコーティングの図解
図13 特定波長域を反射し,それ以外の波長は透過するダイクロイックフィルターコーティングの図解

ダイクロイックフィルター
ダイクロイックフィルターは,波長に応じて光を透過または反射する。特定波長域の光を透過し,それ以外の波長域の光を反射または吸収する。ダイクロイックフィルターは,所定の波長と角度ではHRコーティングとして機能し,この波長の光に増加的干渉を引き起こして反射する一方,他の波長の光を通過させる(図13)。

ダイクロイックフィルターは,目視検査工程をレーザー波長と組み合わせたり,複数のレーザーを組み合わせたり,或いは蛍光放射からレーザー波長を分離するのに共通して用いられる。

図14 波長1050 nm,12.5 mm径のダイクロイックロングパスフィルター#87-029 の透過スペクトル
図14 波長1050 nm,12.5 mm径のダイクロイックロングパスフィルター#87-029 の透過スペクトル

ロングパスフィルター
ロングパスフィルターは,透過率が50%のスループットまで上昇した時のカットオン波長より長い波長の光を透過させる。ロングパスフィルターは,吸収型フィルターかダイクロイック型フィルターのどちらかに区分される。吸収型フィルターは,使用するガラス基板の吸収特性に基づき光の透過を遮断する。

言い換えると,遮断された光はフィルターによって反射されるのではなく,フィルター内に吸収される。不要な光からのノイズが問題となるアプリケーションには,吸収型フィルターの使用が理想的となる。

吸収型フィルターは,入射角度依存性が高くないため,広範な角度からフィルターへ光を入射させることでき,その時の透過特性や吸収特性に大きな変化がない。しかしながら,吸収型フィルターは,入射レーザーのエネルギーを直接吸収してしまうため,そのLIDTは一般的に決して高くはない。

ダイクロイック型のロングパスフィルターは,フィルターを透過せずに遮断された波長を反射する。図14に示される通り,ロングパスフィルターはその透過率が最高値に達した後に透過曲線に波が生じる。フィルターの蒸着工程中にこの波を制御することは困難である。

メーカーが透過率曲線のスロープ特性(立ち上がり特性)を急峻にしようと努力するほど,この波の量は増加する。図14は,p偏光とs偏光間の同フィルターの性能の違いを明確に示している。ロングパスフィルターは,ラマン分光や共焦点顕微鏡,バイオテクノロジー向け装置を始めとする幅広いアプリケーションに用いられる。




■Optical Coating 4
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