4. 有機薄膜光集積回路における各素子の理論解析
本節では,実際に3節のプロセスを経ることで得られる有機薄膜光集積回路の各素子について理論解析を行い,その性能限界について言及する。なお,機能材料としてはグラフェンを選択し,入射光の波長および偏光は1550 nmのTEモードとする。計算された各素子の理論限界は,予め表1にまとめておくので,それも参照されたい。
4.1 伝送路
図5(a)に,有機薄膜光集積回路における伝送路の断面図を示す。PMMAコア厚を1μm,サイトップ上下クラッド厚を2μmに固定し,波長1550 nmの入射光に対して,有限要素法(Finite Element Method;FEM)によりモード解析を行った結果を図5(b)に示す。本結果を踏まえて,適当なシングルモード伝送を得るためには,導波路幅を2μmに設定した。
次に,時間領域差分法(Finite-difference time-domain method;FDTD method)を用いて,伝送路の曲げ損失を計算した。有機薄膜光回路では,通常の回路面内の曲げ損失に加えて,フィルム曲げに伴う面直方向の曲げ損失も考慮する必要がある。図5(c)に各曲げ方向に対する伝搬損失の解析結果を示す。これにより,曲率半径100μm以上であれば,0.2 dB以下で伝送可能であることが見て取れた。また,本回路において,コアの垂直方向は空気で挟まれているため,高屈折率差が実現されている。そのため,面直方向は極めて強い曲げ耐性を有する。
4.2 入出力カプラ
有機薄膜光回路では,通常の光回路で用いられるような導波路端面からの入出力は困難となる。そのため,垂直方向からグレーティングカプラを用いるアプローチが有効となる。しかしながら,有機材料系では,シリコンフォトニクス(Si/SiO2)のような系と異なり,グレーティングカプラに必要な高屈折率差(高い結合係数κ)をもつ材料分布を得ることが極めて難しい。そのため,本研究では金属グレーティングカプラ28)を用いることで,その問題をクリアする。
図6(a)に,有機薄膜光集積回路における入出力カプラの構造を示す。金属グレーティングはPMMAコアの直下に埋め込まれており,そこからテーパを介して伝送路に繋ぐことで,適当なシングルモード伝送を得られるようにしている。まず初めに,FDTDによる解析により,金属グレーティングにおける結合効率の見積もり,およびモード解析を行った。計算したグレーティングカプラ(Ti 10 nm/Au 30 nm)の結合効率の波長依存性を図6(b)に示す。ここで,グレーティングピッチΛをパラメータとし,入射光の角度は94°,duty比は50%で固定した。このとき,Λ=1120 nmの金属グレーティングにおいて最大の結合効率が得られ,対象波長の近傍では,おおよそ–7.5 dBの結合効率となることを確認した。