次に,経路中に1 mm厚の水サンプルを挿入した場合の結果を図4(d)に示す。低コヒーレンス光干渉であるOCTの場合(図4(b))とは大きく異なり,分解能は0.54μmから0.56μmへと,水が存在しない場合と比べて,ほとんど変化が見られず,分散の影響を受けないことが分かった。
今回実現した0.54μmという分解能は,我々の知る限りにおいて,従来のOCTで記録されていた記録0.75μm19)を超える値である。さらに,この超高分解能が,分散媒質(水)によってほぼ影響を受けないことを実証した7)。これは眼底や皮膚深部など,分散の影響が顕著になる状況での超高分解能光計測の実現に大きく近づく結果である。今後は分極反転光デバイスを改良することで,光源の大光量化によるイメージングの高速化や,広帯域化によりさらなる分解能向上も期待できる。また今回の実証実験の次段階として,サンプルの画像化などの応用に向けた展開が期待される。
5. おわりに
本稿では,量子もつれ光を用いた超高分解能光計測の実現に向けた「量子光コヒーレンストモグラフィ」の研究について紹介した。従来のOCTで記録されていた0.75μmを上回る0.54μmという超高分解能に対応する結果を実現し,さらに分散媒質(水)に対しても分散の影響を受けることなく分解能を維持できることを実証した7)。
今後は量子OCTの改良だけでなく,従来技術であるOCTと融合させることで,より多様な用途へと適用範囲が拡がると考えられる。将来的には,超高分解能光計測として,緑内障の早期診断など医療分野への応用や,非破壊検査など産業分野への応用発展も大いに期待できる。