1. はじめに
機械のしゅう動面や固体の接触面には表面粗さ(微小凹凸)やうねりが存在している。粗さを有する金属同士では,実際に接触するのは肉眼では見えない微小突起同士である。この部分を真実接触部と言い,見かけの接触面積の1/1000程度と言われている。また,接触面全域を見渡すと表面には微小突起よりも大きなうねりがあり,高いうねりの部分で相手面と厳しく接触し,低いうねりの部分では全く非接触になるといった巨視的な片当たりが生じる。
特に,軸受などの機械要素における高精度なはめあい部では,表面粗さがつぶれることによるミクロンオーダーの形状変化がその締結強度(接触面剛性)に大きく影響する場合があり機械の信頼性を左右する1)。そのため,表面粗さとうねりの両方を考慮にいれて接触問題を扱うことが重要であるが,その両方を同時に扱うことは難題である。その一つの理由として,顕微鏡は視野と分解能がトレードオフの関係にあり,微小接触部の観察を全域にわたって観察する便利な技術が存在しないことが挙げられる。
具体的には,微小な真実接触部の一つ一つの観察には顕微鏡が必要であるが,一方でうねりを考慮する場合,一般的な機械要素を考えると,mmもしくはcmオーダー以上の観察域が必要である。広観察域をカバーするためにスティッチング技術を用いることが理論的には可能であるが,広域にわたる繰り返し観察とナノレベルでの位置合わせが煩雑な作業でありより簡便な計測技術が求められている。
そこで著者が所属する研究室では,そのような真実接触部を観察する装置として,広視野かつ高分解能な「広視野レーザ顕微鏡」を開発してきた。本稿では,この広視野レーザ顕微鏡による過去の観察例と,最近の取り組みとして干渉を利用したナノレベルの高さ方向分解能を有する計測技術を紹介する。