大阪大学産業科学研究所・助教の春日貴章氏らの研究グループは、植物由来の原料だけで、特定波長の光を95%以上反射する構造色フィルムを開発した(ニュースリリース)。タマムシの翅のように微細な構造で光を反射して発色し、生分解性も備える。鮮やかな発色と環境負荷の低減を両立する材料を実現した。

図 1 植物由来ナノ材料の特性を生かした多孔質層(「疎」な層)と、同じく植物由来の「密」な層を
積層することで、タマムシの翅の構造を再現することに成功。ピーク反射率はタマムシの約3倍。
構造色は、微細構造によって特定波長の光を反射し、発色する。微細構造が保たれれば退色しにくく、見る角度によって色が変化するなどの特徴がある。一方、人工の構造色材料の多くは石油由来のプラスチックや無機材料を中心に作られ、生分解性を備えていない。従来の生分解性構造色材料では反射率が最大50%前後にとどまっており、生分解性と高い光学性能の両立が課題だった。

図2 天然、人工含め構造色材料は数多く存在するが、生分解性と高反射率を両立することは容易ではない。
天然高分子で反射率を高めるには、主に二つの課題があった。一つ目は、材料間の屈折率差を確保しにくいことだ。高い反射率を得るには、屈折率の異なる薄膜を交互に重ねる必要がある。しかし、天然高分子の屈折率はおおむね1.5~1.6と近く、十分な屈折率差を得ることが難しかった。二つ目は、厚さ約100nmの薄膜を積み重ねる製法だ。無機材料やプラスチックに用いる従来の加工法は、天然高分子には直接適用しにくい。
研究グループはこれらの課題に対し、植物原料などから抽出できる極細繊維「ナノセルロース」を、空気を多く含むスポンジ状の多孔質材料にした。空気を含むことで屈折率を約1.2まで下げ、同じく植物由来の多糖類であるペクチンの屈折率約1.5との差を確保した。
次に、水中に分散した電荷を持つナノ粒子や高分子電解質を電極上に堆積させる「電着」技術を採用した。電着時間で膜厚を制御し、空気を含むナノセルロース多孔質層とペクチン層を交互に積層した。作製した構造色フィルムは、可視光の特定波長で95%以上の反射率を示した。研究グループによると、既報の生分解性構造色材料の中で最高の反射率という。また、植物由来のナノセルロースとペクチンのみで構成されているため、生分解性を備える。
電着時間を制御することで、反射波長を可視光から近赤外光まで調整でき、混色や金属調の光沢を持つ材料の作製も可能にした。さらに、近赤外光を反射するフィルムを天窓材に使った遮熱実験では、ガラス単独の場合に比べて屋内の温度上昇を抑えた。JSTの発表によると、多孔質構造によって発泡シート並みの断熱性能も備えるという。
今後は、耐湿性の向上と具体的な用途開発に取り組む。環境中に流出してもマイクロプラスチックとして残らない装飾用ラメや、回収を必要としない農業用光学センサー、紙製の偽造防止材料、透明な遮熱・断熱窓材などへの応用を想定する。





