情報通信研究機構(NICT)と旭化成は,発光波長265nm帯の高強度深紫外LEDを搭載した鉄道車両用空気殺菌モジュールを開発し,静岡鉄道の実運行中の鉄道車両内への搭載を実証した(ニュースリリース)。
深紫外線による殺菌応用では,従来,光源として水銀ランプが使用されてきたが,水銀ランプは水銀を含むだけでなく,割れやすく,光源のサイズや駆動電源が大掛かりになる。一方,深紫外LEDは,水銀ランプに比べると光出力がはるかに小さく,どちらも鉄道車両の搭載には課題があった。
今回,研究グループが開発した高強度深紫外LED空気殺菌モジュールは,小型・軽量な深紫外LEDの特長を活かし,車両連結部の上部(かもい)内部にコンパクトに搭載し,車両内のウイルスを含む空気を吸入し,モジュール内で深紫外光照射により不活性化後,清浄な空気を排出する。
殺菌効率の最も高い発光ピーク波長265nm帯の高強度深紫外LEDチップをマルチチップ実装し,流入する空気の方向と対向するように配置することで,空気中のウイルスと深紫外光の相互作用を最大化している。水銀ランプと比較して,指向性の高いLEDの特性を活かし,流入するウイルスを効率的に不活性化する構造を実現した。
モジュールの効果を検証するため,空気中を浮遊するウイルスに対する不活性化性能を評価した。また,比較用として低圧水銀ランプを使用した参照用モジュールを製作し,同様の実験を行なった。
ウイルス不活性化に必要な消費電力量について評価した結果,高強度深紫外LED空気殺菌モジュールは水銀ランプを用いたモジュールに比べ,99.9 %のウイルス不活性化に要する消費電力量を40.7%削減できることを確認した。また,実際に旅客運転を行っている静岡鉄道の鉄道車両へ搭載し,1か月間の試験運転を通じて,安全かつ安定した動作も確認したという。
500mW出力の深紫外LEDを複数個搭載した同型の別モジュールを使用し,35分の稼働で90%,71分の稼働で99%,106分の稼働で99.9%のウイルスが不活性化された。一方,水銀ランプを用いたモジュールでは,99.9%の不活性化に188分を要し,不活性化に要する時間を43.6%短縮できた。
今回の成果は,高強度深紫外LED技術を活用し,鉄道車両内での省電力な空気殺菌を実現したもの。研究グループは,空気中のウイルスを介したエアロゾル感染のリスクを低減し,国民の健康と安全を守るとともに,水銀廃絶による環境汚染防止や,省電力化によるCO2削減にも寄与することが期待されるとしている。