国立天文台(NAOJ)が率いる研究グループは,134億光年先の生まれたての銀河の中で水素原子や酸素原子が放った輝線の検出に成功し,銀河の原子輝線観測の最遠方記録を更新した(ニュースリリース)。
研究グループは,アルマ望遠鏡の12mアンテナを40台以上とジェームズウェブ宇宙望遠鏡(JWST)を使って長時間の観測を実行し,130億光年よりもさらに先の,現在知られている中で最遠方の銀河から放たれた原子輝線の観測に成功した。
研究は,JWSTが最初の深宇宙撮像観測を行った2022年に始まった。そこで,今回のターゲットであるGHZ2(あるいはGLASS-z12)を含む,予想よりも多くの遠方銀河の候補が見つかっていた。
現在の銀河形成理論を検証し,銀河の初期形成過程を理解するには,このような遠方銀河候補の確認とその物理的な性質の解明が必要。そのためには,原子や分子から放たれる特徴的な輝線を分光観測で捉えなければならない。
今回,アルマ望遠鏡とJWSTを組み合わせた観測によって,このような非常に遠方の原始銀河の知られざる性質が少しずつ明らかになってきた。アルマ望遠鏡はこの銀河の中で2回電離した酸素原子が放った輝線(静止系88ミクロン)を検出し,その赤方偏移がz = 12.333であることを確認した。
これは,この銀河が,現在の宇宙年齢のたったの3%,ビッグバンから4億年しか経っていない初期宇宙に存在していたことを意味する。つまり,この原始銀河がこれまでで最も遠い134億光年先にあることを確かめたことになる。
一方で,JWSTの二つの観測装置NIRSpecとMIRIによる複数の輝線の検出により,この銀河の星形成活動がこれまでに知られていた他の遠方銀河に比べて,特に激しいことも突き止めた。さらに,その金属量(水素よりも重い元素の相対量)が,他の銀河に比べて極端に低く,太陽近傍の1/10にも満たないこともわかった。そして,その銀河の中には普通の銀河にはあまり存在しないような若くて重くて熱い星が多いことも明らかにした。
アルマ望遠鏡の観測からこの銀河の質量は太陽の数億倍であり,その質量の大半が100pc(約300光年)という狭い領域にギュッと詰まっており,まるで天の川銀河のまわりを取り囲む球状星団のようであることがわかった。金属量,星形成活動,星密度の性質を併せて考えると,GHZ2はこれまで数十年間,その形成過程が謎であった球状星団の祖先である可能性が高くなってきたという。
研究グループは,初期宇宙の原始銀河の研究において,また新たな道が切り開かれた成果だとしている。