筑波大学と産業技術総合研究所(産総研)は,レーザー発光する液滴をインクジェットプリンターで吐出させ,高速かつ大量にレーザー光源を作成する手法を開発し,この液滴を基板上に並べた小さなレーザーディスプレーの作成に成功した(ニュースリリース)。
レーザー光は従来の発光デバイスの光と比べ,単色性・コヒーレンス・指向性に優れ,ディスプレーとして利用した場合,輝度と色再現度の面で,これまでの原理的な限界を突破できると考えられている。
しかし,現在実現されているレーザー光源は,一つひとつが一辺数百μmから数mmほどの複雑なデバイスであり,通常のディスプレーとして使用するには,さらに素子を微細化し,高密度かつ大量に敷き詰める必要がある。
研究では,優れた耐久性と不揮発性を示すイオン液体に有機色素を添加した溶液を,インクジェットプリンティング技術によって超撥液加工を施した基板上に吐出したところ,一般に利用されている液晶ディスプレーや有機ELディスプレーの1画素とほぼ同等サイズの,直径30μmほどの液滴を得た。
この液滴はインクジェットプリンターで作成でき,高い位置精度で基板上に設置が可能。40インチ8Kモニターと同等の解像度で2cm四方に液滴を敷き詰めることに成功し,より大きな領域にも同等の密度で液滴を設置できるという。
一般に,液体デバイスは漏れや蒸発などが問題とされるが,開発したデバイスは室温大気下で数ヶ月以上にわたり安定で,機械的な振動にも液体が漏れることはなかった。
次に,この液滴1滴を透明な電極で挟んだデバイスを作成して外部から光を照射したところ,液滴から赤色のレーザー光(液滴レーザー)が放出された。この状態で液滴に電場を印加すると,液滴が電場に沿って変形し,レーザー光の放出が止まった。この変化は視覚的にも確認でき,作成した液滴がディスプレーの「ピクセル」として利用できることが示された。
一般に,レーザー光を得るためには液滴が球体である必要があり,電場による変形がレーザー光の放出を止めたと考えられる。この仮説を検証したところ,楕円状に変形した液滴の内部における歪んだ光の経路がその原因だと突き止めた。
レーザーディスプレーを実現するため,液滴を2×3 のアレイ状に配置したレーザーアレイデバイスを作成し,これにおいてもレーザー発光の電気的なスイッチングに成功した。
研究グループは今後,デバイスのコンパクト化,および液滴レーザーの耐久性とON/OFF 比の改善により,レーザーディスプレーの実用化につながるとしている。