東京農工大学の研究グループは,光学顕微鏡の微分干渉法を用いて,蒸発途中の水溶液内での高分子濃度の分布を測定することに成功した(ニュースリリース)。
高分子を溶解させた溶液を塗布し乾燥させて薄膜を作製する手法は,ものづくりで多用されている。しかし,蒸発途中で高分子がどのように濃縮されて濃度分布が変わるのか,を簡易に計測する手段がなく,学術としての理解が不十分だった。
このことは,膜の構造制御が難しいことにもつながっており,解決すべき課題でもあった。さらに,蒸発により高分子が濃縮されると,蒸発速度が著しく低下することも広く知られているが,蒸発速度の低下が何で決まるのか,どのような情報があれば予測できるのかも分かっていなかった。
今回研究グループは,水溶性高分子を溶かした水溶液が蒸発する様子を,光学顕微鏡の微分干渉法を用いて連続写真として記録した。また,蒸発開始からの時間に対する蒸発速度の変化を計測した。
高分子には,汎用性が高いポリビニルアルコール,ポリビニルピロリドン,ポリエチレングリコールのいずれかを用いた。また,高分子の種類毎に分子量(高分子のサイズ)を3~4種変更し,分子の大きさの影響も調べた。実験の結果,以下のことを明らかにした。
・顕微鏡写真内の輝度の分布は,予め計測して作成した2つの検量線(輝度と水溶液内の光路長勾配の検量線,水溶液の屈折率と高分子濃度の検量線)を用いることにより,高分子の濃度分布に変換できる。
・水溶液中の高分子の拡散係数は,高分子の分子量だけでは整理できない。
・溶液と空気の境目(界面)に高分子が集積すると,蒸発初期に比べて1/10程度まで蒸発速度が低下する。
・蒸発速度の低下の程度は,水溶液内の高分子の拡散係数と逆の相関がある。
蒸発中の溶液内部での溶質濃度分布は,計測する手段が極めて限られており,測定自体が難しい。研究グループはこの成果について,微分干渉法が新たな計測手段として,広い分野で利用されることが期待できるとする。また,溶液と空気の境目での高分子集積と蒸発速度の低下を定量的に明らかにした点は,ものづくりでの蒸発速度の制御や予測を行なう上で大事な基礎となるとしている。