京都大学の研究グループは,量子ビットとして優れた性質を持つイッテルビウム原子の2種類の同位体をそれぞれ補助量子ビットおよびデータ量子ビットとして用いる手法を開発した(ニュースリリース)。
中性冷却原子を用いた量子コンピュータは大規模化が容易で,量子ビット間の接続性が良いため注目が高まっている。しかし,この系では大規模な量子計算に必要な量子誤り訂正のための補助的な量子ビットの読み出しを,データを保持する量子ビットに影響を与えずに行なうことが困難だった。
研究では,イッテルビウム(Yb)原子の2種類の同位体(171Yb,174Yb)を同時に光ピンセット配列に用意し,それぞれをデータ量子ビット,補助量子ビットとして用いることでこの課題解決を試みた。2種類のYb原子同位体からなる系は,先行研究の課題の克服に理想的だという。
初めに2種同位体Yb原子配列の作成を試みた。まず,2つの同位体を同時にレーザー冷却し,光ピンセット配列にトラップする。その後,それぞれの同位体の原子の光学遷移に対して共鳴するレーザー光(556nm)を照射し光誘起衝突と呼ばれる分子を生成する機構により2つの原子を同時にトラップから逃がす過程を引き起こし,各光ピンセットに含まれる原子の個数が0または1である状況にする。
最後にそれぞれの同位体の原子の光学遷移に対して共鳴する399nmの光を照射し,原子からの散乱光をカメラで撮影。この時点では原子はランダムに光ピンセット配列にトラップされている。さらに,その状態から撮影結果をもとに,動的な光ピンセットを用いて欠損がない原子配列を作成した。
次に補助量子ビット(174Yb)の読み出しがデータ量子ビット(171Yb)のコヒーレンスに与える影響を評価した。そのために,2種同位体Yb原子アレイを用意し,スピンエコーシーケンスと呼ばれる方法でデータ量子ビットのコヒーレンスを評価した。
その際,補助量子ビットの読み出しに用いる光(プローブ光)を照射しながらコヒーレンスを評価した場合と照射せずに評価した場合を比較することで,読み出しが与える影響を定量的に解析した。
その結果,プローブ光を照射した状況でもデータ量子ビットのコヒーレンスの99.1±1.8%が保たれることが分かり,補助量子ビットの読み出しは影響をほとんど与えないことを実証した。さらに,この読み出し忠実度は99.92%であり,量子誤り訂正に必要な性能を満たしていることも示した。
研究グループは,これにより中性原子型量子コンピュータにおいて量子誤り訂正の実装が容易になり,量子コンピュータの実用化が加速するとしている。