阪大ら,微量の溶媒から脂質の詳細な観察に成功

大阪大学,国立国際医療研究センター,実中研,島津製作所は,極微量の溶媒を使って,生体組織の脂質を詳細に観察するための技術を開発した(ニュースリリース)。

大阪大学は,「タッピングモード走査型プローブエレクトロスプレーイオン化法(tSPESI)」の研究開発を主導し,生体組織の脂質分布の可視化に取り組んできた。t-SPESIでは,細いガラス管を高速に振動させながら高電圧を印加した溶媒を流すことで,ガラス管の先端で試料成分を局所的に抽出し,気体状態のイオンに変換する。生成されたイオンは質量分析装置に導入され,分析される。

今回研究グループは,質量分析イメージングを高精細化するためのt-SPESIの技術開発を行ない,疾患モデルマウスの精巣組織に含まれる脂質分布を高精細に可視化することを目指した。

t-SPESIは,キャピラリプローブの側面にレーザー光を照射することで生じる影の変位から,プローブの振動振幅を計測する技術と,振動振幅の大きさが一定に維持されるように試料ステージとキャピラリプローブの距離を調整するフィードバック制御技術を採り入れている。

t-SPESIはガラス管の先端の大きさが抽出を行なう領域に依存する。抽出の領域を小さくすると,生成されるイオンの量も減少する。したがって,抽出領域の縮小とイオンの高感度検出を両立するための技術が重要となる。

研究グループは,質量分析イメージングを高精細化するために,先端を先鋭化したガラス管を作製すると共に,生体組織から抽出―イオン化された成分を効率的に質量分析装置に輸送するための新たなイオン輸送管を開発し,約130フェムトリットルのわずかな体積の溶媒を用いて,脂質の分布情報をマイクロメートルスケールで高感度に計測できるようになった。

研究では,DHAを含むリン脂質を体内で正常に合成できる野生型マウスと,それらを合成できない疾患モデルマウスを用いて,精巣組織切片の質量分析イメージングをピクセル間距離5μmで行なった。その結果,異なる分子構造のリン脂質が,異なる分布を示すことが観察された。

また,t-SPESIを用いる質量分析イメージングでは,生体組織内の細胞の配置や構造に大きな変化を生じないことも明らかになった。質量分析イメージングを実施した生体組織から,流動性の高いDHAを含有するリン脂質が,精子の頭部の形成過程で重要な役割を果たすことも示唆されたという。

研究グループは,精子形成における脂質の役割を細胞レベルで理解するための基盤技術が実現したとしている。

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