名古屋大学,東京都立大学,大阪大学,京都大学は,反芳香族化合物であるノルコロールに対して芳香族化合物であるアントラセンを連結することでπ共役系を拡張した新規反芳香族化合物を合成する方法を開発した(ニュースリリース)。
がん治療法の一つである光温熱治療法では,光を吸収して熱に変換できる物質を腫瘍内に集積させたのち,外部から光を照射することで局所的に熱を発生させ,その熱によってがん細胞を死滅させることができる。この技術により,低侵襲で副作用の少ないがん治療の実現が期待されている。
このような物質に求められる特性としては,光を効率的に吸収するとともに,そのエネルギーを高い効率で熱に変換することが求められる。また,光に対する安定性も必要となる。光の中でも可視光は生体透過性が低く,生体組織の内部まで光エネルギーを届けることはできない。
一方で,生体透過性の高い近赤外光を吸収する光熱変換材料を開発できれば,生体組織の深部にあるがんに対しても光温熱治療法を適用することが可能になる。このため,近赤外光を効率的に熱に変換でき,高い光安定性をもつ材料の開発に注目が集まっている。
研究グループはポルフィリンの一種であるノルコロールという反芳香族化合物に着目した。反芳香族化合物は,狭いエネルギーギャップをもつことから,長波長領域に光吸収をもつことが知られている。ノルコロールも1100nmまでの近赤外光を吸収する特性をもつが,その光吸収効率は非常に低いものだった。
今回,ノルコロールに対して芳香族化合物であるアントラセンを縮環させることでπ共役系を拡張した2種類の新規反芳香族化合物を設計し,これを合成する新手法を開発した。得られた反芳香族化合物の光吸収特性はもとのノルコロールに比べて大幅に向上しただけでなく,1500nmにまで長波長化しており,第二近赤外光とよばれる領域にまで到達することが分かった。
また,今回合成した2種類の反芳香族化合物の溶液に近赤外レーザーを照射し,その温度上昇を計測することで,それぞれの光熱変換特性を評価した。その結果,アントラセンを1つ縮環させた化合物Aの方が2つ縮環させた化合物Bよりも優れた光熱変換特性を示すことが判明した。
別の測定から,化合物Aの方が化合物Bよりも顕著な反芳香族性を示すことが明らかになっており,反芳香族性と光熱変換特性との間に関係がある可能性が示された。また,これらの化合物は十分な光安定性をもっており,繰り返し光を照射しても性能低下が見られなかった。
研究グループは,光吸収によって発生する熱を活用したがん治療等への応用が期待されるとしている。