千葉大学,産業技術総合研究所,東北大学,大阪公立大学は,空間偏光構造を持つ光の粒(光子)の量子力学的な情報を,半導体中の電子の空間スピン構造へ転写することに成功した(ニュースリリース)。
光子と電子は有望な量子ビットとして期待されている。特に光子は量子情報の伝達を得意とし,また固体中の電子は量子情報の記録・演算処理を得意とする。異なる特長を持つ光子と電子の量子情報変換技術は,長距離量子情報通信を可能にする量子中継技術を担い,大規模な量子インターネットの構築に役立つ。
光子が持つ量子情報の一つが偏光。光子の偏光は,この右回りと左回りの円偏光の重ね合わせ状態によって表すことができ,ポアンカレ球はそれを視覚的に表現したもの。同様に,電子も電子スピンと呼ばれる量子情報を持ち,その状態は上向きスピンと下向きスピンの重ね合わせ状態としてブロッホ球上で表すことができる。
光子の偏光状態と電子のスピン状態は,スピン角運動量(SAM)と呼ばれる自転に例えられる角運動量を共通に持ち,それを介して量子情報の交換が可能。一方,光子には自転とは異なる回り方に関する軌道の量子情報も存在する。
そのような光子は,螺旋を描きながら進むことができ,軌道角運動量(OAM)と呼ばれる公転に例えられる角運動量を持つ。OAMを持つ光子の軌道状態は,SAMのように2つの状態だけではなく,理論上は無限の数の異なる状態をとることができるため,高次元の状態を形成することができる。
最近では,SAMとOAMの性質を同時に持つ高次光子が注目されている。この高次光子は,SAMとOAMに対応する偏光と軌道を合わせた空間偏光構造を持つことができ,一つの光子により多くの量子情報をのせられるだけでなく,自由度の異なるSAMとOAMがもつれた光子を形成するといった特徴を持つ。したがって,高次光子は新たな量子の資源として活用する,高度な量子情報技術への応用が期待できる。
しかしこの高次光子に対応する電子の状態は全く未知な存在だった。そこで研究グループは,高次光子の偏光の空間構造に対応したスピンの空間構造を持つ電子状態を理論的に構築し,新たな電子状態の実現を試みた。
その結果,各空間位置におけるスピンの量子力学的な重ね合わせを明らかにし,空間偏光構造を持つ光子を用いた空間スピン構造を持つ新たな電子状態の実現に成功した。
研究グループは,この研究成果は,光の角運動量の可能性を格段に広げた高次元量子インターフェースの実現につながるもので,将来の大容量の量子情報通信に貢献することが期待されるとしている。