矢野経済研究所は,国内の自動車用フィルム・シート市場の動向を調査し,製品セグメント別の動向,参入企業動向,将来展望を明らかにした(ニュースリリース)。
それによると,2023年の自動車用フィルム・シートの市場規模(国内メーカー出荷数量ベース,輸出分含む)は前年比106.1%の1億9,494万m2であった。
内訳を見ると,内装用加飾フィルムは1,553.5万m2(前年比100.5%),外装用加飾フィルムが475万m2(同102.4%),ウィンドウフィルムは329万m2(同101.9%),合わせガラス用中間膜は1億6,910万m2(同106.8%),車載ディスプレーカバーパネル向け樹脂シートは69万m2(同95.8%),車載ディスプレーカバーパネル向け反射防止フィルムが157.5万m2(同115.6%)となったとしている。
ここ数年,車載ディスプレーの自動車1台あたり搭載数の増加や,車載ディスプレーの大面積化,樹脂製からガラス製のカバーパネルへの切り替え進展を背景に,視認性を確保するための車載ディスプレー用カバーパネル向け反射防止フィルムは高成長が続いているという。
また,内装用加飾フィルムの内,電装部品向けのインサート成形用フィルムは,コックピット周辺に搭載される車載ディスプレーの大型化や,複数の機能を統合したIntegrated Displayの搭載など,自動車の電装化進展に伴うニーズを取り込んだことで,市場規模は年率6~9%程度の成長率で推移している。
この調査で注目したガラス製カバーには,万一破損した際に破片の飛散を防止するため飛散防止フィルムが貼合されるが,ユーザー企業によっては最表面にフィルムが来ることでガラス独特のソリッドな質感や光沢が損なわれるとして飛散防止フィルムを貼合しないケースもあるという。
ただ,最近では高級車を中心に,コックピット周りのデザインを,CID(センターインフォメーションディスプレー)やMCP(メータークラスターパネル)が個別に設置されたスタンドアローンタイプの車載ディスプレーではなく,1枚のカバーに複数のディスプレーを組み合わせたマルチディスプレーとするケースが増えてきており,ガラス製カバー1枚当たりの面積が拡大する傾向にあるとしている。
さらに,マルチディスプレーにおいては様々な視野角度からの視認性を確保する必要があるため,AR(反射防止)フィルムやAGAR(防眩・反射防止)フィルム貼合に対するニーズが拡大しているという。
また,近年では,ダッシュボードの上にモニターを設置するオンダッシュ型のCID(センターインフォメーションディスプレー)がトレンドになっているほか,デザイン性の観点からフードレスタイプのMCP(メータークラスターパネル)も増加している。
オンダッシュ型のメリットとして運転時の視点移動が減ることで安全性向上につながるほか,車種や設置場所の制約が少ないためモニターサイズを自由に選べることなどが挙げられる。
一方で,ダッシュボード上への設置となることやフードレスであるために,フロントガラスなどから入ってくる日差しが反射し,運転者からモニターが見えにくくなるというデメリットもある。このような課題に対しても,ARフィルムやAGARフィルムのニーズは拡大しているという。
将来展望については,自動車用フィルム・シートメーカーは,CASE(Connected,Autonomous,Shared,Electric)の各項目に対応する製品の開発・投入を進めてきたものの,関連需要の創出・拡大にはそれほど結びついていないのが現状だとしている。
しかしながら,次世代自動車のための技術は着実に進歩しており,CASE実現に向けた動きは不可逆的なものである。また,今後20年の内には自動運転やパワートレイン,生産台数,ビジネスモデル,モビリティサービス(MaaS:Mobility as a Service)などの状況は大きく変容すると見る向きもあり,CASEを中心とした自動車業界の変革が進む見通しだという。
例えば,これまで自動車の生産は「自動車メーカー」が担っていたが,EV化や電装化が進んだことで,家電メーカーやICT機器メーカーがコンセプトカーを発表するという動きもある。これに伴い,車室内空間をリビングやシアタールーム,リモートワークスペースとして活用したり,EVに搭載した蓄電池や太陽電池をエネルギー源として災害の際に利用することも期待されているという。
このような,移動にとどまらないモビリティの用途変化は自動車用フィルム・シートメーカーにとって新たな需要の創出を予感する。例えば,車室内をリビングや書斎のように使用する場合は内装部材の手触り感が重視されるようになることが見込まれるほか,傷つきや汚れに強い内装材料のニーズ,汚れたとしても簡単に張り替えられる加飾フィルムなどのニーズも増加すると考えられ,防汚性に優れた原反やコーティングが求められるとしている。
また,仕事場や会議スペース,シアタールームとして使用される場合は遮音性が重要視されるため,これまでフロントガラスが中心だった合わせガラス用中間膜の採用部位はサイドガラス,リアガラスにまで拡がるという。
CASEを中心とした自動車業界の技術革新の過程では,様々な成長の芽がいたるところに散りばめられている。自動車用フィルム・シートメーカーにおいてはこれまで培ってきた技術・ノウハウを整理し,CASEや環境対応などのニーズに応える製品を「想像/創造」することで将来的な市場拡大に先手を打ち,「100年に一度の大変革期」と言われる自動車業界の中で持続的な成長に繋げていくことが求められるとしている。