宮崎大学の研究グループは,過マンガン酸カリウムの酸化反応を利用した簡便迅速電子染色法の開発に成功し,光顕用パラフィン切片の超微形態解析を刷新するブレイクスルーを得た(ニュースリリース)。
生体の様々な器官は特有の生理機能を果たす細胞や結合組織が織りなす精緻な立体構造を有し,近年の目覚ましい再生臓器の開発研究においては立体構造の再現が喫緊の課題とされる。
しかしながら,従来の電子染色法は規制が厳しいウラン化合物を必要とするため,その応用は世界的に特定の研究機関に限られていた。
研究グループは,先行研究において,光顕用パラフィン切片に帯電防止処理を加えず観察できる低真空走査電顕の特性を活かし,生体組織や細胞を立体的に捉える厚切り切片観察法を確立した。
この研究により,過マンガン酸カリウムの酸化反応を利用した簡便迅速電子染色法の開発に成功し,光顕用パラフィン切片の超微形態解析を刷新するブレイクスルーが得られた。
新たな電子染色法は,光顕用パラフィン切片を0.2%過マンガン酸カリウム水溶液で5分間処理し,水洗した後,レイノルド鉛染色液で3分間処理,水洗・乾燥後に観察が可能となる簡便迅速なプロトコールだという。
電子染色を施したパラフィン切片を元素分析で検証した結果,過マンガン酸カリウム特有の酸化作用によって鉛の沈着が向上し,腎糸球体足細胞や気管線毛上皮細胞の微細構造を可視化するに十分な反射電子が得られ,光学顕微鏡では捉えることができないナノレベルの超微形態を確認した。
今回,従来のウラン・鉛染色と比較しながら,厚切り切片観察法による立体的な微細形態画像や光顕&電顕相関観察(CLEM)法の応用例も併せて報告している。
研究グループは,新たな簡便迅速電子染色法の開発を契機に,光顕と電顕の隔たりを埋める低真空走査電顕の特性を活かした電顕解析が医学・生物学研究に幅広く応用されることで,生体組織や細胞を構成する構造と機能の相関を解き明かす研究の進展が期待されるとしている。