慶應義塾大学,静岡大学,ヤマハ発動機は,1時間の休憩を挟んでもう一度VRシミュレータを体験することで,シミュレータ酔い(VR酔い)を低減できることを明らかにした(ニュースリリース)。
ドライブシミュレータを利用すると,搭乗者の安全を保ちながら運転のトレーニングを行なったり,開発機に搭乗した利用者の挙動を評価したりすることが可能。しかしながら,しばしばシミュレータ酔いが生じ,ドライブシミュレータの活用を妨げてきた。
シミュレータ酔いの対策の一つとして,繰り返し体験による順応を利用した手法が存在する。順応による酔いの低減は,複数回同じ状況を体験するだけで引き起こすことができる。そのため,追加の装置やプログラムを必要とすることなく,コストを抑えた酔いの低減が可能となっている。
しかしながら従来の研究では,シミュレータ体験の間に1日以上の時間間隔を空けた順応効果しか示されてこなかった。もし,さらに短い時間間隔で順応が生じることが確認できれば,より効率的なシミュレータ酔いの低減手法の提案に繋がる。そこで研究グループは,VRバイクシミュレータを用いて,数分~1時間の時間間隔で酔いを低減することができるかどうかを調べた。
参加者は,実験室内でバイク型筐体に乗った状態でヘッドマウントディスプレーを装着し,バイクに乗って左右に蛇行するシミュレータ映像を体験した。各参加者は,6分間のシミュレータ映像を,休憩を挟んで2回体験した。
この休憩時間の長さについて,参加者を①6分間②主観的酔いがなくなるまで③1時間の3群の3つのグループに分けた。参加者は主観的な酔いの程度を20段階で口頭で報告した(FMS)。FMSスコアは,0が全く酔っていない状態で,20がひどく酔っている状態を表す。
実験の結果,①6分休憩群では1回目よりも2回目のFMSスコアが大きくなった。これは,6分間の休憩では,1回目の酔いが2回目に持ち越されてしまったためだと考えられる。次に,②酔いが回復するまで休憩を取った群では,FMSスコアは増大も低減もしなかった。最後に③1時間休憩群では,1回目よりも 2回目のFMSスコアが低くなった。
この結果は,1時間の休憩を取ることによって,順応による酔いの低減効果が生じたことを示唆する。同時に,主観的な酔いが回復したとしても,それ以上の休憩をとらなければ,順応による酔いの低減効果は生じない可能性も示された。
研究グループは,この成果は,自動車や船舶といった乗り物酔い,ゲームや教育コンテンツなどの幅広いVRシステムの利用に伴う映像酔いの問題の解決にも応用されるとしている。