名古屋大学の研究グループは,合成化学で70年以上に渡り汎用されてきたリンイリドと呼ばれる反応剤を用いて,3種類以上の化合物を1つのフラスコ内で一挙に連結させる新しい化学反応を実現した(ニュースリリース)。
通常の化学反応では,2種類の化合物を反応させて新しい化合物を生成させる。1つ1つの化学反応を行なう際には多くのコスト・時間が必要であり,反応を行なう度に多くの廃棄物も生じる。
そのため,AとBとCを一挙に反応させて1工程でABCを合成するような技術開発が重要だが,実際に3種類以上の化合物を一挙に反応させると,ABCのほかにAB,BC,ACさらにはACBのような副生成物が生じる問題が起こる。
この問題に対して,研究グループは,特定の原子団と反応する性質をもつ分子と,光エネルギーを利用して電子を1つだけ出し入れできる触媒を組み合わせる戦略を考案した。
反応基質となる分子から電子を取り出して生成するラジカルイオンの性質と,電子を戻した際の性質の違いを活かすことで,3種類以上の化合物を化学選択的に連結させることができると考えた。反応基質としては,リンイリドと呼ばれる分子を利用した。
研究グループは,青色LEDの照射下,低温で適切な光レドックス触媒を作用させると,リンイリドから電子が1つ取り出されて生成するラジカルカチオンが電子豊富なアルケンと結合をつくることを発見した。
さらに3成分目の基質としてC=C−C=O配列をもつカルボニル化合物を反応させることで,3つの化合物から一挙に複雑な環状化合物をつくり出すことに成功した。また,基質の組み合わせを変えることで4種類の化合物を狙ったとおりに連結させる反応も実現した。
研究グループは開発した手法を活用することで,多数の化合物からなるケミカルライブラリーを迅速に提供できることから,今後新薬候補品の探索研究の大幅な加速が期待されるとしている。