宇宙航空研究開発機構(JAXA)は,すばる望遠鏡の超広視野カメラで撮られたカイパーベルト天体の探査画像に独自の解析手法を適用した結果,カイパーベルトの領域を広げる可能性のある天体を発見した(ニュースリリース)。
米国航空宇宙局(NASA)の探査機「ニュー・ホライズンズ(New Horizons)」は太陽系外縁部を調査するための計画。2015年に冥王星系をフライバイ(近接通過)しながら観測,2019年にはカイパーベルト(海王星の先の小惑星などの天体(小天体)がリング状に分布している領域)天体の一つであるアロコス(Arrokoth)をフライバイし,太陽系外縁天体の表層を初めて観測した。
すばる望遠鏡は,探査機が今後調査するカイパーベルト天体の候補の探索に協力している。探索は,すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ(HSC)を用い,ニュー・ホライズンズ探査機が飛行する方向の二視野(満月のおよそ18個分の広さに相当する領域)に絞って行なっている。これまでに行われた約30半夜の観測で,240個以上の太陽系外縁天体を見つけている。
研究では,この観測により取得した画像を日本の研究者を中心とするグループが異なる手法で解析し,新たに7個の太陽系外縁天体を発見した。研究グループは,決まった視野を一定期間撮り続けたHSCの観測データにはJAXAが開発した移動天体検出システムを適用できることに気がついた。
このシステムは普段,近地球小惑星やスペースデブリの検出に使われている。これは32枚の連続した画像をいくつもの方向にずらして重ね合わせることにより特定の速度で移動する天体を検出するもので,高速処理のために独自の工夫がされている。
研究グループがこの検出システムを用いて新たに発見した7天体のうち2つについてはおおよその軌道が求められ,国際天文学連合の小惑星センターから仮符号が与えられた。
従来の研究では約50天文単位から外側ではカイパーベルト天体の数が激減すると認識されていたため,カイパーベルトの外縁はそのあたりにあると想像されていた。しかし,今回仮符号を与えられた2つの天体の軌道長半径はどちらも50天文単位を超えている。
研究グループは,今後も似たような軌道を持つ天体が発見され続けば,カイパーベルトはさらに先まで続いていると言えるかもしれないとしている。