慶應義塾大学と米ライス大学電気は,1次元ナノ材料であるカーボンナノチューブ(CNT)配向膜が高配向・高密度に整列したCNT配向膜を用いて,高偏光度の偏光熱光源の開発に成功した(ニュースリリース)。
偏光を用いた技術は様々な分野で用いられており,その活用には偏光を生成するための偏光光源が必要となる。現在,広く普及している光源としてレーザーがあり,単一波長の偏光を利用する際に用いられている。
一方,広い波長帯域を有する(ブロードな)偏光が必要な場合は,白熱電球などの熱光源からブロードな発光を得た後,偏光板を通すことでブロードな偏光を生成している。しかし,そのような光源は構造上,小型化することが難しく,偏光応用技術を発展させていく上で妨げとなっていた。
研究グループは,CNTが最密充填で1方向に整列したCNT配向膜を用いた熱光源を開発し,広い波長域で発光する偏光した熱光源の開発に成功している。しかし,得られた偏光の偏光度は0.6程度とそれほど高くないことから,さらなる偏光度と発光のエネルギー効率の向上が望まれていた。
今回,シリコンチップ上のCNT配向膜を用いた偏光光源において,CNT配向膜が架橋した新たな構造の熱光源を開発した。この素子に通電して発光させたところ,通電加熱による赤外領域での熱発光が得られた。
この熱発光の偏光特性を測定したところ,CNTの配向方向に直線偏光した発光が得られた。偏光の度合いを示す偏光度は0.9程度と高く,架橋構造を有しない従来の熱光源の偏光度0.6と比べて,大幅に向上した。
この高い偏光度では,非偏光成分である垂直方向の偏光強度が約5%に抑えられていることから,架橋ナノ構造によって,偏光板を用いなくても,CNT配向膜から高い偏光度の偏光をダイレクトに得ることに成功した。
さらに,この素子での発光のエネルギー効率は,架橋構造を有さない従来の素子と比較し,12倍以上向上しており,省エネルギーの熱光源となることも明らかとなったという。
開発した偏光熱光源は,シリコンチップ上に集積可能で超微小なマイクロサイズの新しい偏光光源となることから,研究グループは,従来技術では実現できない新しいセンシングや光デバイス,分析技術を創出することが可能であり,科学技術から産業応用まで,幅広い分野で活用されることが期待されるとしている。