東京大学の研究グループは,フィトクロモビリンを合成するヘムオキシゲナーゼ1が,葉緑体だけでなく細胞質にも局在して,実際に機能することを明らかにした(ニュースリリース)。
植物にとって光は光合成におけるエネルギーとしてだけでなく,環境情報を得るシグナルとしても最も重要な環境因子となっている。光シグナルは光受容体により感知され,フィトクロムはその中でも最も重要なはたらきをする。
タンパク質を構成するアミノ酸は可視光を吸収できない(透明である)ため,タンパク質である光受容体が光を吸収するためには色素が必要であり,これを色素団という。フィトクロムの色素団はフィトクロモビリンとよばれ,その合成の第1段階はヘムオキシゲナーゼによるヘムの開裂反応にょる。
第2段階はフィトクロモビリン合成酵素により触媒される。ヘムオキシゲナーゼもフィトクロモビリン合成酵素も最初に翻訳されるタンパク質のN末端に葉緑体への輸送配列が存在すること,また植物細胞ではヘムは葉緑体で合成されることから,これまでフィトクロモビリンは葉緑体の中でのみ合成されると考えられてきた。
植物の種子が発芽して,地表に達するまでは胚軸を伸長し,地表では子葉が展開・伸長し,さらに葉緑体が発達して光合成が出来るようになる。フィトクロムは,このような形態形成のための光シグナルを受容する。しかし,まだ光合成を行なっていない暗所でどのように電子を得て,フィトクロモビリンを合成しているのかは,良く分かっていなかった。
今回研究グループは,植物の光受容体であるフィトクロムの色素団形成に関わるヘムオキシゲナーゼ1が葉緑体だけでなく細胞質でも機能することを初めて明らかにした。
さらに,転写開始点制御という新たに発見された制御方法で,1つのヘムオキシゲナーゼ1遺伝子から異なる局在性をもつタンパク質が作られ,生理的に機能することを明らかにした。
光合成が出来ない環境では,ヘムオキシゲナーゼ1は葉緑体のフェレドキシンから電子を得ることが出来ないため,細胞質に局在して,そこに存在する還元物質から電子を得ているのではないかと考えられるという。
今回,このように環境条件に応じて局在性を変化させながら,植物が異なる環境に順化する新たな機構が明らかになった。またこの成果について研究グループは,これまで葉緑体でのみフィトクロモビリンが合成されると教科書にも記載されていた従来の定説を覆す,新たな発見だとしている。