神戸大学と北海道大学は,褐藻の一種,クジャクケヤリの藻体の先端にある房状の同化糸が緑色に輝くように見える現象を明らかにした(ニュースリリース)。
シャボン玉やCDなどの表面にみられる鮮やかな色は,表面のナノスケールの微細な構造での光の干渉や回折によって生じており,構造色と呼ばれている。海藻でも一部の種が構造色を示すことが知られていたが,そのメカニズムや機能については不明な点が多く残されている。
研究グループは,褐藻クジャクケヤリが構造色を示すメカニズムを明らかにするため,その構造色について詳細な観察を行なうとともに,電子顕微鏡による細胞微細構造の解析を行なった。その結果,ケヤリの仲間に特徴的な藻体の先端にある束状の細胞糸(頂毛)の細胞に含まれる直径15µm程度のイリデッセントボディと呼ばれる球状の小胞が構造色をもたらしていることを確認した。
また,照射した光の波長によってイリデッセントボディでの反射の程度が異なり,緑色や青色が強く反射されるために緑色または宝石のオパールのような構造色が生じることを明らかにした。
ケヤリの仲間のイリデッセントボディは浸透圧ショックなどのわずかな刺激でも壊れるため,急速凍結法による電子顕微鏡観察を行なった。その結果,構造色を示すクジャクケヤリでは内部に直径150nm程度の,可視光の波長より短く均質な顆粒が結晶のように規則的に配置していることが明らかになった。
一方,クジャクケヤリの近縁種だが構造色を示さないケヤリも頂毛の細胞にイリデッセントボディを含んでいるが,内部の顆粒の直径は不規則で結晶構造は見られない。
褐藻における構造色は,潮間帯と呼ばれる浅い水深帯に生育しているホンダワラ類の一種などでは,強く変化の大きい太陽光への適応など,光合成に関わる機能が指摘されていた。しかしながらクジャクケヤリでは,その機能は光合成に関わるものではないと考えられる。
一方,分子系統学的解析の結果から,ケヤリ属ではクジャクケヤリが最も早く進化したことが明らかになっており,ケヤリは2次的に構造色を失ったと考えられる。
また,クジャクケヤリは藻食性の魚類が多く生育する,暖温帯から亜熱帯に分布するのに対し,ケヤリは藻食魚類がそれほど多くない温帯域に分布している。
これらのことから,クジャクケヤリの構造色は外敵に対するカモフラージュまたは警告など,生物間のコミュニケーションに関わる役割を果たしているのではないかと考えられるという。
研究グループは,今後,構造色が海藻の生活戦略において果たしている役割の解明が期待されるとしている。