山口大学の研究グループは,表面増強フォトクロミズムを検出原理とする新しい比色定量法を開発した(ニュースリリース)。
必須アミノ酸である L-フェニルアラニン(Phe)は,血圧を上昇させる作用があるほか,生体試料中の濃度測定はフェニルケトン尿症の診断に有用であることから,様々な検出技術開発されてきた。
医療現場では必要に応じてリアルタイムに得られる測定データが求められるが,既存の方法でサンプル中のPheを検出するには煩雑な前処理操作が必要なため,POCT(Point-of-Care Testing)に対応できる無標識で簡便・迅速にPheを検出する手法が待ち望まれていた。
ブドウ糖が環状に連なったオリゴ糖であるシクロデキストリンは,様々な有機化合物をその分子内に閉じ込めること(包接)ができる。シクロデキストリンに包接されたアミノ酸化合物は,無機酸化物表面に強固に吸着すると知られていた。
研究では,研究グループが培ってきた「無機酸化物半導体微粒子による表面増強フォトクロミズム現象」に関する知見と「シクロデキストリンによるアミノ酸化合物の吸着促進効果」の研究事例をヒントに,新しいPheのラベルフリー比色定量法を開発した。
今回,Phe,シクロデキストリン誘導体,そして無機酸化物半導体である三酸化タングステン(VI)(WO3)微粒子を混ぜ合わせた3元系水溶液の,紫外線照射に伴う色調変化を調査した。
詳細な解析の結果,シクロデキストリン誘導体に包接されたPhe分子は,一般的な非共有結合性の外圏吸着ではなく,共有結合性の内圏吸着するため,WO3微粒子表面に高濃度に濃縮されることを突き止めた。
また,3元系水溶液への紫外線照射により顕著な色調変化(表面増強フォトクロミズム:無色透明→青色透明)を示した。紫外線照射に伴うフォトクロミック着色速度とWO3微粒子表面に吸着濃縮されたPhe表面濃度との間の明確な線形関係の回帰分析により,Phe濃度を定量可能であると実験的に証明した。
これにより,ラベル化のような煩雑な前処理や特別な装置を必要とせず,「Phe」・「シクロデキストリン誘導体」・「WO3微粒子」の3成分を水中で混ぜ合わせ,紫外線照射による発現する表面増強フォトクロミズムの色調変化を観察するだけで高感度なPheの定量を達成した。
実験結果からPheの検出限界は,3.2×10−8mol/dm3と見積られた。これは,既存の分光学的測定法や電流計測法を3桁上回る検出感度だという。研究グループは,POCTに対応可能な新しいプローブ粒子として有用な成果だとしている。