東大ら,薄膜を光と熱で金属と絶縁体に繰返し変化

東京大学,東京工業大学,日本原子力研究開発機構,量子科学技術研究開発機構,総合科学研究機構は,イットリウム・酸素・水素の化合物(YOxHy)の結晶方位を揃えたエピタキシャル薄膜を世界で初めて作製し,光照射と加熱によって絶縁体と金属の繰り返し変化に成功した(ニュースリリース)。

光応答性を示す物質ではより大きな電気抵抗変化が求められている。これには,電気抵抗が温度下降に伴い増加する「絶縁体・半導体」 から,温度下降に伴い減少する「金属」に変化する物質の開発が重要となる。

これまで報告された光誘起金属化は,金属状態がピコ秒(10-12秒)程度しか保持できない。また,光照射による低抵抗状態を長期間(数日)保持できる例として,12CaO・7Al2O3があるが,この物質は半導体(室温の電気抵抗率:~100Ωcm)にまでしか変化しない。

研究では,光照射により電気抵抗が減少する物質の1つであ るイットリウム酸水素化物(YOxHy)に着目。YOxHyは太陽光照射によって可逆的に着色・脱色する性質(フォトクロミズム)を示し,同時に電気抵抗も可逆的に変化する。

しかし,YOxHy薄膜における太陽光照射時の電気抵抗減少は1桁にすぎない。その要因として,従来のYOxHy薄膜はガラス上で作製された多結晶体であり,ランダムに並んだ結晶の粒界抵抗の影響を強く受けていることが考えられるため,より方位の揃ったYOxHy結晶を用いた物質本来の光応答性の評価が望まれていた。

研究グループは,YOxHy結晶と類似の結晶構造を有するイットリア安定化ジルコニア基板を用い,基板温度や水素ガス分圧等の薄膜作製条件を最適化することで,YOxHyエピタキシャル薄膜の作製に成功した。このエピタキシャル薄膜に太陽光を30分照射したところ,電気抵抗率が>1.3×103から1.0×100Ωcmと変化し,光応答性が従来の多結晶体に比して100倍向上した。

高強度の紫外レーザー(193nm)を照射したところ,電気抵抗率は温度下降とともに1.7×104から6.2×10-4Ωcmまで7桁以上減少し,「金属状態」が発現した。このレーザー照射後の金属状態は室温下において数日スケールで長期間保持された。

金属状態が保持される中でも電気抵抗は微増し,125°C,2時間加熱処理を行なうと急激に電気抵抗値が大きくなり,元の透明な絶縁体へと戻った。さらに紫外レーザーを再照射すると再び金属化し,光照射によって絶縁体から金属への繰り返し制御を達成した。

局所構造・化学組成の高分解能計測から構造モデルを構築し,これを基に電子状態を計算した結果,薄膜内の水素が光応答して余剰電子が生じ金属化に至る微視的機構を明らかにした。研究グループは,高性能な光メモリ・スマートウィンドウ等のデバイス応用が期待されるとしている。

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