東京大学,情報通信研究機構(NICT),理化学研究所,チェコPalacký University,独University of Mainzは,伝搬する光の論理量子ビットであるGottesman-Kitaev-Preskill量子ビット(GKP量子ビット)を世界で初めて生成した(ニュースリリース)。
誤り耐性型量子コンピュータを実現するため,通常は非常に多数の量子ビットを用いて,それらを1つの論理量子ビットとして構成する。この方法では用いる物理量子ビット(通常の量子ビット)の数が膨大であることが,実用的な量子コンピュータへの最大の障壁となっている。
一方,GKP量子ビットは,1つの光パルスの中で1つの物理量子ビットを用い1つの論理量子ビットの生成を実現できる。これまでGKP量子ビットは有力視されてきたが,光では実現に至っていなかった。
研究グループは2019年,大規模でどのような量子操作も実現可能な量子計算プラットフォームの実証に成功したことを発表した。
これは光の伝搬波の量子システムの性質が,大規模化や相互作用の容易さにつながるため。そのプラットフォームに十分な質を持った論理量子ビットを注入することによって誤り耐性型量子コンピュータを実現することができる。
その論理量子ビットとして,1つの物理量子ビットである光パルスで1つの論理量子ビットを実現できるGKP量子ビットが有力視されてきた。しかし,GKP量子ビットの構造を実現するためには,強い非線形性を使う必要がある。
伝搬する波では超伝導やイオントラップのような静止したシステムと違い,非線形性の増幅が難しく,光量子コンピュータの論理量子ビットの実現の大きな課題の1つだった。
今回の成果ではNICTと共同で開発した光子検出器を用いて,最も有力とされるGKP状態を光で生成した。その生成手法として,GKP状態を生成するためのシュレディンガーの猫状態を最初に生成した。
シュレディンガーの猫状態は量子性の高い状態ではあるが,GKP状態と異なる構造を持つため,その構造を整形するために,光のシステムで実現しやすい線形光学素子を用いた。その結果,ピークの数および鋭さがGKP状態の質を特徴づけた。
今回はこれを1ステップで行なったが,同じ方法を反復することでピークの数が増えて行き,質の高いGKP状態を実現できることで,将来の拡張性が期待されるという。
研究グループは,この成果は,超高速大規模誤り耐性型量子コンピュータの実現への第一歩であり,学術的だけではなく,光量子コンピュータの社会実装の発展にもつながるものだとしている。