京都大学,北海道大学,東京理科大学,分子科学研究所は,C1構造をもつPtIn2ナノ粒子の液相合成に成功し,可視領域のプラズモン特性を明らかにした(ニュースリリース)。
ナノ粒子を異方的な形状にすることで,AlやPdも可視域にLSPRを示すことや,4族の窒化物半導体(TiN,ZrN,HfN)材料が可視領域に伝搬型の表面プラズモン共鳴を示すことが徐々に明らかになっていたが,本質的に球状で可視領域にLSPRを示すナノ粒子は,貨幣金属ナノ粒子と貨幣金属を主成分とする合金ナノ粒子しか知られていなかった。
Auが可視領域にLSPRを示す理由として,Auの自由電子の集団振動とバンド間遷移だけでなく,束縛電子のスクリーニング効果が重要であることが示唆されていた。
そこで研究グループは,貨幣金属を含まずにLSPRを達成する金属間化合物ナノ粒子の設計にあたり,①電子構造が貨幣金属と類似していること(類似の自由電子振動とバンド間遷移),②結晶構造(原子の配位環境)がfcc構造とは大きく異なること(異なるスクリーニング効果)の二つの条件を考慮した。
研究グループは,この二つの条件を満たすナノ粒子として,C1(CaF2型)構造をもつPtIn2金属間化合物ナノ粒子を選択し,これが可視領域にプラズモン特性を示すと予想した。
C1-PtIn2ナノ粒子は,高温での固相反応によってLSPRを示さない小さな粒径でしか合成されていなかったが,研究グループは,Ptナノ粒子を原料とする液相合成法を開発し,明瞭なLSPRを示す10nm以上の擬球状のナノ粒子を液相中で合成することに成功。複数の大きさの擬球状ナノ粒子の生成を確認するとともに,目的のC1構造が形成していることを確かめた。
得られたC1-PtIn2ナノ粒子のクロロホルム分散溶液は,鮮やかな紫色を呈し,紫外-可視(UV‒vis)吸収スペクトルは551nm(2.25eV)に極大波長を示した。
シミュレーションで,C1-PtIn2と面心立方格子(fcc)構造のAuナノ粒子の電子構造と光励起電子ダイナミクスの違いを調べたところ,前者は後者に比べてバンド間遷移が減少しPt原子の束縛d電子によるスクリーニング効果が強くなっていることがわかった。
これらの結果は,金属間化合物ナノ粒子の結晶構造と組成を調整することにより,そのプラズモン特性を制御することが可能であることを強く示唆するもの。研究グループは,従来の貨幣金属ナノ粒子の代替材料となるような,金属間化合物ナノ粒子による新しいプラズモニック材料の開発が期待されるとしている。