理化学研究所(理研)は,超短パルスベッセルビームによる微細可溶部形成とその後の選択化学エッチングを用いてガラス製デジタルPCRチップを高速に作製することに成功した(ニュースリリース)。
従来のPCRをはるかに超える性能の検査ができるデジタルPCR用チップは,直径数十μm,深さ数百μmの微細貫通穴構造が1万個以上開けられている。これまで他の材料によるチップの開発が進められていたが,シリコン基板は工程が多く,ポリマー基板は疎水性かつ熱伝導率が低いことが問題だった。
今回,研究グループは,基板として親水性があり,比較的熱伝導率の高いホウケイ酸ガラスを用い,開発した超短パルスレーザー誘起選択エッチング法で,基板に10,000個以上の微細貫通穴を高速で開けることを試みた。
従来のガウシアンビームの焦点深度は数~数十μmであり,基板の厚さ数百μmの領域を加工するためには,集光点を基板の厚さ方向に沿って走査する必要がある。一方,ベッセルビームの焦点深度は通常数mm以上あるため,ビームを走査せず加工できるが,焦点深度が基板の厚さよりはるかに長く,多くのエネルギーが加工に使われず無駄になる課題があった。
ベッセルビームは,レーザー光源から出射されたレーザー光をコリメータレンズなどにより平行光として空間伝播させ,円すい形のアキシコンレンズに入射して生成する。生成した波長1030nm,パルス幅2psのベッセルビームを2枚のレンズと20倍の対物レンズを用いて縮小投影し,焦点深度が基板の厚さとほぼ同じベッセルビームを成形した。
このビームのシングルショットを周波数100Hzで,XYZステージ上の厚さ500μmのガラスに照射しつつ,ステージを1.2cm/秒で移動し,120μmの間隔で1秒間に100個の微細可溶部を形成した。より高速なステージと繰り返し周波数により加工速度は向上できるという。
レーザー照射後,全域にわたって直径1μmの円形の微細可溶部が形成されたガラス基板に10%のフッ酸溶液で選択化学エッチングを行なった。微細可溶部は他の領域に比べ,フッ酸に対して約4倍速い速度でエッチングが進む。
30分のエッチングで,直径約70μm,深さ400μmの微細貫通穴が形成された。この寸法はデジタルPCRに適し,ガラスの親水性と毛細管現象により,容易に微細貫通穴に水溶液を充填できる。作製したガラスチップをデジタルPCRへの応用を実証し,適用できることも示された。
研究グループはこの加工技術について,3次元集積回路用TGV作製やガラス基板の任意形状の穴開け,切断など多様な応用も期待できるとしている。