理科大,光誘起電流の緩和時間を電気的に制御

東京理科大学の研究グループは,透明電極のSnドープIn2O3(ITO),光刺激と電気刺激の両者に対して導電性が変化するNbドープSrTiO3(Nb:STO)から構成されるITO/Nb:STO接合の光メモリスタデバイスを作製し,光照射により誘起される電流の緩和時間を電気的に制御できることを実証した(ニュースリリース)。

近年,クラウド領域で処理するデータ量の増加やリアルタイム情報処理の需要により,「エッジコンピューティング」に注目が集まっている。エッジコンピューティングを実現するためには高い学習性能を維持しつつ,計算コストを抑制した演算処理技術が必要不可欠となる。

その有力な候補として,リザバーコンピューティングが注目を集めている。リザバーコンピューティングの中間層「リザバー」は,入力信号の非線形変換を担うが,この働きをソフトウェアに代えて物理ダイナミクスの非線形応答性で置き換えることができる。

物理実装したリザバーである「物理リザバー」はリザバーコンピューティングの更なる高効率化を実現するが,精度の良い時系列学習を行なうには,入力信号と物理リザバーの「忘却」の時間スケールが同程度である必要がある。

そこで研究では,緩和時間をコントロールできる物理リザバーの実現を目指して,新たにITO/Nb:STO接合を組み込んだデバイスを作製し,その特性評価を行なった。

ITO/Nb:STO接合では,光を入射した際,光照射の開始・停止に伴う電子-正孔対の生成・再結合に起因して,光誘起電流が増加・減衰することが知られている。この現象を利用することで視覚器で捉えた画像の記憶・学習といった,生体機能を模倣した応用が期待されている。

光誘起電流が飽和値へと増加・減衰するのに要する時間,すなわち,緩和時間はITO及びNb:STOの組成によりある程度の調整が可能だが,接合作製後は接合に固有の値に制限されてしまう。

研究の結果,ITO/Nb:STO接合への光照射中に電気刺激を与えることで,緩和時間を制御できることが明らかになった。この特性は物理リザバーコンピュティングへの応用に非常に適しているという。

また,物理リザバーとしてのデバイスの性能を手書き数字の画像分類タスクで評価した結果,デバイスに入力する光信号の時間スケールに合わせて,適切な緩和時間を示すように印加電圧を調整することで,学習精度を最適化できることを実証した。

研究グループは,この研究を発展させることで,ITO/Nb:STO接合の光伝導性に関する知見を提供すると同時に,低計算コストかつ高性能なエッジAIデバイスの実現につながるとしている。

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