矢野経済研究所は,次世代有機デバイス世界市場を調査し,デバイス分類別,システム(需要分野)別,研究機関の動向,将来展望などを明らかにした(ニュースリリース)。
有機トランジスタ(OFET)は,有機半導体を活性層に用いて電流を制御するFETで,これまで,優れた特性を持つシリコン(Si)を代表とする無機材料で半導体産業は興隆してきたが,無機系半導体は微細化の限界に突き当たって苦悩している。
そこに遅れて登場した有機半導体は,無機系にはない優れた特長を有している。また,有機トランジスタは,有機半導体材料を溶液にしてスピンコート法などによって基板上に塗布する溶液プロセスによって作製することができ,低コストかつ大面積・フレキシブルな電子製品への応用を目指して開発が進められている。
有機トランジスタでは,無機材料に比べると膨大な種類の材料を活用することが出来る。加えて,有機分子の設計自由度,幅広い膜構造可能性,多様な作製プロセスなどが挙げられ,有機トランジスタが優れている点として,以下がある。
第1に,作製プロセスが簡略。液体に溶かすことができるので,インクジェットプリンターを用いて,簡単に複雑な模様を描くことができる。また,有機トランジスタなら200℃以下という低温で,熱に弱いフィルムやプラスチック基板と組み合わせたデバイスも作製できる。
第2に,材料の分子設計の自由度が高い。目的に合わせて,置換基をつけたり,ベンゼン環の長さを変えるなど,少しずつ設計を変えた有機トランジスタを簡単に合成することができる。第3に,優れた柔軟性を有している。有機トランジスタの材料はπ共役系有機材料なので,膜形成はもとより,丸めたり折り曲げたりすることができる。これまで,四角く平たい形しかなかったディスプレーも,有機半導体で作ればフレキシブル形状が可能になる。
こうした有機トランジスタの特長から,バイオセンサーや,フレキシブル電子デバイスなどのディスプレー駆動,RFIDなどの無線タグ(情報タグ),高性能モバイル端末の集積回路などの応用分野に向けた開発が期待されているという。
今回の調査で注目した有機トランジスタの開発において,応答周波数として世界最速の38MHzが達成されており,この値は現在,物流管理などに広く用いられているRFIDタグの通信周波数である13.56MHzより十分に大きな値であることから,無線タグの給電に十分応用可能なレベルに達している。
さらに,超短波帯はFMラジオ放送やアマチュア無線などの電波として利用されていることから,将来,応答周波数がさらに増加することで,超短波帯を利用した長距離無線通信が可能な有機集積回路の実現が期待されるという。
有機トランジスタは,比較的簡便な印刷プロセスで量産できることから,今後のIoT社会を担う物流管理に用いられる低コストの無線タグや,電磁波から電力を供給する無線給電システムへの幅広い展開が想定されている。
将来展望については,2025年の有機トランジスタ世界市場規模(メーカー出荷金額ベース)を1,800億円,2045年の同市場規模を2025年比10.9倍の1兆9,690億円になると予測した。
2025年の世界市場をデバイス需要分野別にみると,ディスプレー駆動が最も大きく,全体の59.4%を占め,次いでバイオセンサーが13.9%,化学センサーが11.1%,その他は15.6%になると予測した。無機系にはない優れた特長を有した有機デバイスの展望は明るいとしている。