東京大学,国立天文台(NAOJ),筑波大学は,129億年から134億年前の宇宙にある3つの銀河で,炭素と酸素に対して窒素が異常に多いことを明らかにした(ニュースリリース)。
生命を形作るタンパク質に必須な炭素と窒素,酸素は,宇宙の中で誕生した恒星の内部の核融合で作られ,やがて超新星爆発などで放出されたと考えられている。これまでの研究から,初期の宇宙で酸素が急激に増えたことが明らかになったが,炭素,窒素についてはまだ分かっておらず,いつ頃どの元素が多く作られてきたかについては不明だった。
研究グループは,ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の高感度赤外線観測データを詳細に解析し,初期の宇宙にある71個の銀河に含まれるガスの炭素,窒素,酸素などの元素の存在比を調べた。そして,最新の数値シミュレーション結果とも比較研究を行なった。
高感度観測のデータでも炭素や窒素ガスが放つ光の検出は難しく,元素の存在比を測定することは困難だったが,129億年から134億年前の初期の宇宙にある3つの明るい銀河で輝線が検出された。
炭素,酸素,窒素の輝線の光度などから,酸素に対する炭素および窒素の個数の存在比を求めたところ,窒素が炭素や酸素に比べて異常に多く,この存在比が,太陽系はもとより,私たちの天の川銀河のガスと比べても3倍以上になることが分かった。
炭素と酸素,窒素ガスは,宇宙の中で誕生した恒星の内部の核融合で作られ,やがて超新星爆発などで放出されたと考えられている。
しかし,窒素の存在比が大きいガスが今回見つかったことで,今回見つかったガスは超新星爆発から放たれるガスより窒素の存在比が遥かに大きいので,初期の宇宙では,一般的に考えられている元素の主な供給メカニズムとは違うメカニズムが働いていた可能性がある。
初期の宇宙の銀河で,炭素や酸素に対して,窒素が多く存在することは理論的に予想されておらず,今回の観測を通して初めて明らかにされた。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡で,想像していなかった初期の宇宙の様子が明らかになった。研究グループは,この研究で新たな謎も出てきたが,さらなる観測でこの謎に挑んでいくとしている。