東北大学,材料科学高等研究所(WPI-AIMR)は,グラフェンと30度回転して成長するMoTe2の積層によって生じるモアレ模様を活用することで,通常は安定して存在しないはずの正八面体型1T構造を持つMoTe2原子層を作製することに初めて成功した。(ニュースリリース)。
2018年に,蜂の巣格子状の炭素2次元シートであるグラフェンを2層積み重ねて一方を1度ひねるだけで,その性質が半導体から超伝導体に変化するという報告が米国の研究グループからなされた。この劇的な性質の変化には原子層どうしをひねることで結晶格子に生じるモアレ模様が関与しているためだとわかった。
今回,研究グループは,代表的な原子層材料のひとつである遷移金属ダイカルコゲナイドのなかでもモリブデン原子(Mo)とテルル原子(Te)の層が積み重なった層状物質であるMoTe2をターゲットとして,グラフェンどうしではなく,グラフェンとMoTe2原子層の重なりによって生じるモアレ模様に着目した。
これまでMoTe2のバルク(3次元)結晶は,三角プリズム型構造と,正八面体型(1T)を1次元方向に歪ませた1T構造の2種類のみが安定して存在することが知られている。近年,バルクMoTe2を原子層にすることで,新たな光学素子などへの応用に期待が持たれている。
今回,分子線エピタキシー法を用いてMoTe2原子層シートをグラフェン上に作製したところ,バルクでは安定して存在できないはずの正八面体型1T構造を持つ原子層MoTe2が作製できていることを,マイクロ角度分解光電子分光や走査トンネル顕微鏡を用いた電子状態観測から明らかにした。
通常の場合(ひねり角θ= 0°)とと異なり,MoTe2がグラフェン上にθ=30°で成長していることを明らかにした。θ=30°はモアレ模様が現れる条件になっており,θ=0°ではグラフェンとMoTe2の積層においてモアレ模様は現れない。
マイクロ角度分解光電子分光と走査トンネル顕微鏡によって1T構造を持つ原子層の試料位置を実空間においてピンポイントで指定して測定したところ,MoTe2において結晶中を動き回る電子がモアレ模様の周期性によって劇的な変調を受け,この変調によるエネルギー利得そのものが,元来不安定な1T構造を安定化する直接原因となっていることを突き止めた。
研究グループは,この成果は今回のグラフェンとMoTe2の積層の例に留まらず,様々な原子層どうしの組み合わせにも広く適用できるため,ひねり原子層における材料開発や機能性の開拓を今後さらに加速できるとしている。