京都大学と産業技術総合研究所(産総研)は,植物プランクトンや従属栄養性の原生生物を含むプランクトンの群集タイプを衛星データから予測するモデルを開発した(ニュースリリース)。
従来,衛星リモートセンシングの分野では,光合成色素により光学的特性を持つ植物プランクトンをターゲットとして,その大きさや分類群を衛星データから予測するモデルが盛んに開発されてきた。
しかし,こうした従来手法では,植物プランクトン以外の生物種にターゲットを拡大できず,プランクトン群集を構成する多様な生物種の全てを捉えきれない問題があった。
そこで研究グループは,Tara Oceans海洋プランクトン探査などの大規模海洋サンプリングで得られた真核微生物メタバーコードをまとめた,EukBankデータセットを活用した。
メタバーコードはサンプルに含まれる全ての真核微生物が持っている18SリボソームRNA遺伝子の配列を網羅的に解読したもので,サンプル中のプランクトンの組成を知ることができる。
まず,現場観測地点ごとのプランクトンの組成に基づき,全ての観測地点を6つの群集タイプに分類した。この分類には,計算機による種間相互作用ネットワークの推定法や,グラフ理論的なモジュール検出法などを利用した。
次に,機械学習の手法の一つであるサポートベクトルマシンを用いて,衛星データからプランクトン群集タイプを予測するモデルを構築した。衛星データは,NASA が運営するTerra,Aqua衛星で取得された海色データと環境パラメータを使用した。その結果,67%の正解率で観測地点の群集タイプを衛星データから予測するモデルを得ることに成功した。
続いて,構築したモデルを用いて,過去約20年間にわたるプランクトン群集タイプの全球分布を衛星データから予測した。その結果,プランクトン群集タイプの季節変動や長期変動を捉えることができた。
例えば,黒潮やメキシコ湾流などの西岸境界流の続流域では群集タイプの季節変動が大きく,特に秋季に特定の群集タイプが出現するパターンが見られた。
この結果は,現場観測により知られている現象と一致するものだった。また,過去20年間で中・低緯度域の海水温は約0.4度上昇しているが,その中で分布が拡大・縮小する群集タイプや安定した群集タイプが見られ,群集タイプにより海洋温暖化に対する応答が異なることが示唆されたという。
研究グループは,プランクトン群集タイプを衛星データから予測するモデルの構築に成功した。構築したモデルは環境と気候変動がプランクトン群集に与える影響の調査に今後有用であると期待されるとしている。