生命創成探究センター(ExCELLS),生理学研究所,北海道大学は,蛍光顕微鏡観察像の時空間相関解析に基づく超解像法SRRFを二光子励起顕微鏡法に適用することで,これまで観察が困難であった生体脳深部のナノスケールの神経細胞微細形態を可視化することに世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
二光子励起顕微鏡法は,組織透過性の高い近赤外線により,光が強く散乱する厚い組織や生体内をサブミクロンの空間分解能で観察することが可能。
一方で,光学顕微鏡の空間分解能は対物レンズの開口数と励起光の波長によって規定される光の回折広がりによって制約が生じる。これまでの二光子励起顕微鏡法を用いた観察では約350nmまでの空間分解能でしか微細形態を可視化できなかった。
そのため,二光子励起顕微鏡では,記憶や学習によって変化する神経同士の情報伝達の場であるシナプス後部(樹状突起スパイン)の微細な形態変化の可視化は難しかった。
そこで,超解像顕微鏡法を二光子励起顕微鏡法に適用する取り組みが進められてきたが,光の散乱が妨げとなり,脳の表面からおよそ100μm程度の深さまでしか超解像観察は実現していなかった。
研究グループはこれを克服するため,画像解析によるアプローチを試みた。2016年に報告された新しい時空間相関解析に基づく超解像顕微鏡法SRRFに着目し,二光子励起顕微鏡法への適用(2P-SRRF)を試みた。
この研究で,2P-SRRF法の空間分解能,深部観察への適用可能性,そして実際の脳組織観察における形態再現性を評価した。既存の超解像顕微鏡法である構造化照明顕微鏡(SIM)との比較の結果,2P-SRRF法はSIMと同等の空間分解能と形態再現性を示すことが確認された。
また,2P-SRRFによる空間分解能の改善効果は生体脳模倣環境ゲルを用いた観察で,1500μmの深さでも示された。研究グループは,脳組織観察のために多数のSRRF処理パラメーターを最適化し,実際の固定脳サンプルおよび生体脳の観察に2P-SRRFを適用した。
その結果,これまでの超解像顕微鏡法では実現困難だった生体脳の大脳皮質視覚野第5層(脳表から500μm深部)の高解像度観察に成功し,錐体細胞基底樹状突起のスパイン微細形態が明瞭に可視化された。
研究グループは,現時点で2P-SRRF法は二次元平面内での空間分解能改善効果に留まっており,今後は本法の三次元への拡張に取り組んでいくとしている。また,より強力な励起光源や,最先端の高速イメージング手法とみ合わせることで,未解明の生命現象の可視化・理解の実現にも挑みたいとしている。