北海道大学,東京大学,東レリサーチセンター,スウェーデン リンショピン大学は,発光・受光機能と熱安定性に優れたガリウムヒ素・ガリウムインジウム窒素ヒ素半導体ナノワイヤを,シリコン基板上に多重量子井戸構造を持つナノワイヤとして合成することに成功した(ニュースリリース)。
物質中で最高峰の光電変換機能と電子移動度を持つIII-V族化合物半導体は,高性能なレーザーやセンサー,LED等に用いられている。
その中で,4個の元素を組み合わせたGaInNAs材料は,特にGaAs材料との接合を形成することで,温度上昇時の性能安定性に優れた光通信帯域で動作する光源材料となることや,太陽光吸収にも優れた特性を示すことが知られている。
一方,その混合結晶を合成する際には元素分離などが発生しやすく,高品質な結晶合成は困難だった。特に,LSIなどに用いられるシリコン基板上での同材料の高品質合成は困難だったという。
研究グループは,結晶を原子層ごとに積み上げていく分子線エピタキシー結晶成長を使い,目的の半導体ナノワイヤ結晶を作製した。可変成形ビーム法を用いた大面積電子線描画装置によって,微細な開口を持つマスクパターンを形成することで,ナノワイヤ結晶が合成可能になる温度・圧力領域を拡大し,その高品質合成に取り組んだ。
高精度に作製したマスク開口ではナノワイヤの発生が確認され,その後ナノワイヤ結晶を成長させることで開口位置を反映したナノワイヤ配列を得ることができた。ナノワイヤは,基板から垂直方向に配向して直径約300nm,長さ約8μmで,基板全面で開口位置に揃った大きさのナノワイヤ群として得ることができた。
それぞれのワイヤの断面は整った六角形構造をしており,その内部に約10nmの井戸幅をもつGaInNAs量子井戸が3重に積層した,多重量子井戸構造が形成されていることを明確に確認することができた。
さらに透過電子顕微鏡で行なう高空間分解能の元素組成分析によって,量子井戸層におけるインジウムと窒素の存在をも確認することができた。同ワイヤからは室温で良好な発光が得られ,窒素濃度を0%から2%まで増加させることで,光ファイバー通信帯域の波長1.3μmまで発光波長を長波長化することができた。
研究グループは,GaInNAs多重量子井戸構造ナノワイヤから良好な近赤外通信帯波長1.3μmの発光が得られたことにより,シリコンテクノロジーに搭載可能なナノスケールの光通信光源の実現が期待されるほか,高性能なシリコン基板上太陽電池への展開も期待できるとしている。