千葉大学とエジプト国立天文・地球物理学研究所は,銀河団の質量と銀河団の数の関係を,銀河団を構成するメンバー銀河を利用して高精度に推定した(ニュースリリース)。
宇宙論における最も重要な問題のひとつは,宇宙において各物質成分がどれくらいの割合で存在するかということ。それを推定する方法の一つとして,銀河団の質量と数の関係を用いるものがある。
銀河団は宇宙における最大の天体であり,銀河団の質量と数の関係は,宇宙論的条件,特に物質の総量に非常に敏感。宇宙における全物質の割合が高ければ高いほど,より多くの銀河団が形成することが予想される。しかし,ほとんどの物質は暗黒物質であり,望遠鏡で光学的に直接観測できないため,銀河団の質量と数の関係を正確に直接測定することは困難だった。
研究グループは,質量の大きい銀河団ほどより多くのメンバー銀河を含んでいるという事実に着目し,銀河団の質量を間接的に測定する方法を採用した。銀河は光り輝く星で構成されているため,各銀河団に含まれるメンバー銀河の数の計測を,その銀河団の質量を間接的に測定する方法として利用できる。
研究グループは,公開されている米国ニューメキシコ州のアパッチポイント天文台に設置された口径2.5mの望遠鏡による大規模な天体撮像分光サーベイである,スローンデジタルスカイサーベイの観測データを解析し,各銀河団に含まれるメンバー銀河の数を計測し,銀河団の質量とメンバー銀河の数の関係を調べた。
そこから銀河団の質量と銀河団自身の数の関係を高精度に推定し,数値シミュレーションによる予測と比較した結果,観測とシミュレーションが最もよく一致したのは全物質が宇宙の物質とエネルギーの総量の約31%を占める宇宙であり,プランク衛星による宇宙マイクロ波背景放射の観測から推定された値と非常によく一致した。
この研究成果を得るためには,各銀河団までの距離と,どの銀河が銀河団に重力的に結合している真のメンバーなのかを世界で初めて正確に決定したことが重要だった。そのため研究グループは,スローンデジタルスカイサーベイ分光観測のデータを利用した。
これまでもメンバー銀河の数を利用しようと試みた研究はあったが,各銀河団までの距離と,近くに見える銀河が真のメンバーであるかどうかを決定するために,少数の異なる波長における撮像データを用いており,あまり高い精度が得られていなかった。
研究グループは,広視野・深視野の大規模な撮像・分光銀河サーベイから利用可能になりつつある新しい観測データに対しても応用可能な手法であり,今後の発展が大いに期待できるとしている。