矢野経済研究所は,国内の空飛ぶクルマ部品市場を調査し,参入企業各社の動向や将来展望などを明らかにした(ニュースリリース)。
それによると,「電動」「自律飛行」「垂直離着陸」が可能な移動手段である空飛ぶクルマは,世界的には2025年前後で事業開始予定とされており,これから約2年で本格的な機体の開発,バーティポート(専用離着陸場)などの周辺設備設置検討,整備,調整が進められていく見込みであるという。
日本国内においても,2025年4月から開催される「2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)」に向けて,運航事業者としてANAホールディングスと米国Joby Aviation,日本航空,丸紅,SkyDriveの4社が選定され,2023年度以降,空飛ぶクルマの本格的な実装検討や関連の施設建設といった動きが進む見込みであるという。また,万博終了後には,関西圏と併せて東京を含む関東での実装も行なわれることが想定されている。
今回の調査で注目した空飛ぶクルマは,一般の航空機と異なる「電動」駆動として開発されている。一方で,既存の旅客機などの航空機の電動化も2030年頃を目途に開発が進められている。
航空機モーターなどを手掛ける国内メーカーでは,既に航空機電動化に向けて大型ジェット向けの製品を開発しており,多くの航空機関連企業との業務提携や協業の実施検討が進められている。現在は旅客機などの航空機専用の製品として開発されているが,将来的に空飛ぶクルマへも応用できる可能性があると考えられるという。
2025年の大阪・関西万博をマイルストーンとして,その後,空飛ぶクルマは特定エリアでの社会実装が進み,実際に空を飛んだ機体をもとに改善などの開発が行なわれると想定され,2030年の国内空飛ぶクルマ部品市場規模(事業者売上高ベース)を745億5,600万円になると予測する。
但し,機体に使用される部品性能の不足,素材や部品のコスト高,安全装置の開発遅れに加えて,機体メーカーの資金調達が難航など開発段階での課題も多く,現状,開発は芳しくない状況にある。
そうした状況からの巻き返しのためには,国や行政からのさらなる補助金や援助,複数の大学や民間企業が参画する国家プロジェクトの立ち上げ,既存の航空機向け技術の導入,参入企業による情報・技術共有などが不可欠であり,それらが開発環境の整備や開発速度を早めることにつながるとする。
事業開始の2025年から2030年までの5年間は特に機体の安全性を重視した開発が必要と同時に成長率が最も高いと考える。また2030年頃から既存航空機の本格的な電動化も進められることから,空飛ぶクルマでも関連部品の開発速度や技術が飛躍的に向上する可能性があるという。
そうしたことで新モビリティ(空飛ぶクルマ)市場の成長が期待され,さらに,法やインフラの整備,社会受容性などを克服することで,従来の枠にとらわれない新たな移動手段として,空飛ぶクルマが当たり前に飛行する未来が見えてくるとしている。