東京工業大学の研究グループは,ペロブスカイト太陽電池の材料として有望視されるFAPbI3(FA = CH(NH2)2)にチオシアン酸イオンを導入した,新しい有機−無機ハイブリッド化合物の合成とその結晶構造解析に成功した(ニュースリリース)。
ペロブスカイト太陽電池の材料には,MAPbI3(MA = CH3NH3)やFAPbI3(FA = CH(NH2)2)に代表されるペロブスカイト構造を有する有機−無機ハイブリッド化合物が使われており,それらの物質の改良が太陽電池の性能向上の鍵を握っている。
特にFAPbI3を用いた太陽電池は目覚ましい発展を見せており,その発電効率は25%を超える。しかし,FAPbI3は通常,ペロブスカイト構造の安定化に150℃以上の高温が必要であり,室温では発電効率の悪い別の構造に徐々に変化してしまうため,耐久性の向上が課題とされてきた。
最近,FAPbI3薄膜にチオシアン酸イオンを添加すると,高い安定性と優れた太陽電池性能を示すことが海外の研究グループから報告され,注目を集めた。しかしチオシアン酸イオンがどのように物質中に存在し,ペロブスカイト構造を安定化するのかは不明であった。
研究グループは,ペロブスカイトFAPbI3(FA = CH(NH2)2)に含まれるヨウ化物イオン(I-)の一部をチオシアン酸イオン(SCN-)で置き換えた,新しい有機−無機ハイブリッド化合物の合成に初めて成功した。この化合物はペロブスカイトFAPbI3よりも低温で結晶化し,乾燥空気中,室温で安定に存在できることが分かった。
得られた化合物の単結晶構造解析を行なったところ,ペロブスカイト構造の基本骨格は維持しているものの,チオシアン酸イオンがペロブスカイト構造に一次元の穴を開け,その穴(欠陥)が周期的に整列していることが明らかとなった。
また,通常のFAPbI3ではペロブスカイト構造を安定化するのに150℃以上の高温を要するが,今回発見された化合物と共存することで,50℃以下でも安定化可能であることが分かった。研究グループは,この結晶構造解析の結果の解釈から,得られた穴開きの結晶構造が足場として働き,ペロブスカイトFAPbI3を安定化するという機構を提案した。
研究グループは,今回得られた結果は耐久性向上のメカニズムを解く重要なカギとなる可能性があり,今後のペロブスカイト太陽電池研究の発展に寄与するとしている。また,得られた新規物質の結晶構造は基礎研究の視点でも興味深く,今後の新規有機−無機ハイブリッド化合物開拓にも寄与する結果であるとしている。