金沢大学と名古屋大学は,生細胞表面の構造をナノスケールのレベルで可視化する技術を確立し,細胞外物質の取り込み過程や,細胞間コミュニケーションに関与するエクソソームの可視化に成功した(ニュースリリース)。
ウイルスの細胞内への侵入や,細胞内外との物質のやり取りを観察するためには,現状の顕微鏡技術の空間分解能では不十分なため,超解像度顕微鏡など高分解能化が進められているが,依然として空間分解能に課題を抱えている。
走査型イオンコンダクタンス顕微鏡(SICM)は,細胞のナノ構造を生きた状態で可視化することができる。SICMでは,ガラスナノピペットを試料に近接させた際に生じるイオン電流の変化を利用して,試料の高さ情報を取得しながら,ガラスナノピペットを走査することで,試料の表面形状を取得する。
しかしながら,SICMの解像度向上に不可欠なガラスナノピペットの微細化が困難なため,これまではその高度な技術を持つ限られた研究グループのみが超解像度のイメージングを達成してきた。
研究では,このような細胞表面のナノスケールの構造変化を高い再現性で観察するため,最重要要素である微細なガラスナノピペットの作製法の開発に取り組んだ。
ナノピペットを作製する際には,CO2レーザープラーでガラスキャピラリー(毛細管)を加熱しながら伸長する。この過程で,ガラスキャピラリーが細くなっていき,ガラスの最も細くなっている部分が破断して,ガラスキャピラリーが2つに分かれることで,ガラスナノピペットが作製される。
そのため,ガラス管の外側/内側の比が大きなものほど,細いガラスナノピペットを作成することができる。そこで,事前にCO2レーザープラーにより,ガラスキャピラリーの一部を局所的に加熱して,内外径比を調節することで,微細なナノピペットの作製を行なった。
このガラスの内外径比を調整したキャピラリーを伸長することで,半径が15nm以下のガラスナノピペットを作製することができた。
これにより,直径120nmほどのくぼみによる細胞外物質の取り込みの過程や,200nm以下のエクソソームの放出が活発に起こる領域と放出されるエクソソームが個々で識別可能となった。
このように,これまで困難であった微細なガラスナノピペット作製法を確立できたことは,ライブセルの超解像度イメージングの高度な技術の共有を促進する成果となる。
研究グループは今後,ウイルスの取り込み機構の解明や,細胞間コミュニケーションの理解が進み,さらに,さまざまな疾病の発症メカニズムの解明や新たな治療法・治療薬の開発に繋がるとしている。