金沢大学とAGCは,金沢大学が開発した3次元原子間力顕微鏡を用いてサファイア(001)とα-クォーツ(100)の酸化物結晶の表面構造と水和構造を原子スケールで可視化することに成功した(ニュースリリース)。
サファイアやクォーツなどの酸化物結晶の表面構造や水和構造は,物質の吸着や摩擦,生体材料の親和性,エッチングレートなどのさまざまな物理現象に直接影響を与える。
そのため,新たな機能を持つ材料を設計するためにはこれらの現象を原子スケールで観察できる手法が求められていたが,これまでは,酸化物結晶の表面構造や水和構造を原子スケールで直接可視化する計測手法がなかった。
一方で,近年,3次元原子間力顕微鏡(3D-AFM)による固体と液体の界面における原子スケールの水和構造観察が行なわれるようになってきたが,その報告例のほとんどが,マイカやカルサイト,カルシウムフロライトなどのへき開が可能な結晶に限られていた。
これらのへき開性の結晶は,AFM計測直前に原子レベルで清浄かつ平坦な表面を簡単に得ることができるため原子スケールの液中AFM計測が比較的容易だったが,サファイアやクォーツなどのへき開が不可能な酸化物結晶表面の原子スケール構造観察は困難だった。
研究グループは,へき開性の酸化物結晶ではないサファイア(001)とα-クォーツ(100)において原子レベルで平坦な表面を得るための表面処理方法を確立し,3D-AFMを用いることで酸化物結晶の表面構造と水和構造を原子スケールで可視化することに成功した。
サファイア(001)とα-クォーツ(100)の表面には官能基である水酸基(OH基)が周期的に並んでいるが,3D-AFMを用いることで,これらのOH基の周期的な配置を可視化した上で,2つの基板上で層状または格子状の異なる水和構造が存在することを明らかにした。
さらに,サファイア(001)表面では部分的に分子配向が乱れたOH基が存在し,その上の水和構造も原子スケールで局所的に乱れていることを可視化した。
また,3D-AFMで取得した3次元力分布像の解析から,サファイア(001)とα-クォーツ(100)表面上における水和力についても議論を行ない,サファイア(001)の方がα-クォーツ(100)よりも水分子への親和性が高いことが分った。
研究グループは,我々の身の回りで用いられている酸化物結晶やガラス材料の開発研究におけるナノスケール構造計測にも広く応用され,ガラスを用いるさまざまな電子デバイスや生体材料の研究の発展に貢献するとしている。