熊本大学と,インド,ヨーロッパ(イギリス・フランス・ドイツなど)の研究グループは,パルサーと呼ばれる天体を長期間にわたって精密観測し,そのデータの解析からナノヘルツの周波数を持つ重力波が宇宙のあらゆる方向から地球に飛来しているという有力な証拠を得た(ニュースリリース)。
重力波は2016年にアメリカ合衆国のLIGO(重力波検出器)実験によって初めて検出された。これまで宇宙は主に光や電波などの電磁波によって観測され研究されてきたが,重力波の検出によって人類が宇宙を探る手段が増えたことになる。
重力波にも様々な周波数のものがあり,研究グループがターゲットとしているのはとても周波数が低いナノヘルツの重力波。これはLIGOのような地上の検出器では検出できず,もし検出に成功すればまた新たな宇宙の観測手段が得られることになる。
パルサーは非常に正確な周期で電波シグナルを出す天体で,このシグナルが地球に到着するタイミングを100ナノ秒の精度で測定することで,宇宙空間を伝わる重力波を検出することができると期待されているが,これまでこの方法で検出されたことはなかった。
研究グループは重力波を検出するために25年にわたってパルサーの観測を継続的に行なってきた。特にこの10年間はシグナルが到着するタイミングを100ナノ秒程度で測定できるようになり雑音の特性の理解も進んだため,重力波への十分な感度を持つことができるようになってきていた。
研究グループは最長25年にわたって観測された25個のパルサーのデータを解析し,その統計的な性質を調べた。その結果,ナノヘルツの周波数を持つ重力波が宇宙のあらゆる方向から地球に到来しているという証拠を得た。
また周波数分布は,その重力波が宇宙に多数存在する超巨大ブラックホール連星から放出されたものであると考えて矛盾のないものだった。
また別の研究成果がNANOGrav(米および加),PPTA(豪),CPTA(中国)からも同時に報告され,同様の結論が得られている。研究グループを含めた4つのプロジェクトは国際コンソーシアム(IPTA)を形成しており,協力して研究を行なってきている。
研究グループは今後,より多くのデータを取得し雑音を軽減する解析手法を開発することで,重力波を確実に検出できるよう観測精度を上げていく。重力波の周波数分布を精密に測ることで,ブラックホールが宇宙の歴史の中で幾度となく合体して成長し,巨大な質量を獲得するに至ったプロセスを解明することができるとしている。