東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU),中国北京大学カブリ天文天体物理研究所(PKU-KIAA),東京大学,愛媛大学,国立天文台らは,ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)を用いて129億年前の宇宙に存在するクェーサー天体を観測し,中心に活動的な巨大ブラックホールが潜む銀河の姿を初期宇宙で初めて捉えた(ニュースリリース)。
巨大ブラックホールが初期宇宙でどのようにして形成されたのかは未だ解決されておらず,さらに,現在の宇宙では銀河中心のブラックホールとそれを抱える親銀河は,大きさが10桁も違うにも関わらず,両者の重さに強い正の相関があることが謎の一つとなっている。
これらを明らかにする為には,なるべく過去の宇宙に存在するクエーサーの親銀河の観測が不可欠。しかし初期宇宙ともなると銀河の見かけの大きさは小さく,暗くなり,さらに明るく輝くクエーサーの光に埋もれてしまうため,こうした観測は宇宙誕生後30億年頃までが限界だった。
今回,研究グループは,HSTの後継であるJWSTを用いて赤方偏移z~6を超える129億年前の宇宙に存在するクェーサー天体を観測し,それらのクエーサーが属する親銀河の星の光を捉えることに初めて成功した。
まず,JWSTのNIRCamを用いて2天体を約1時間ずつ観測し,波長1.50µm,3.56µmの2つの近赤外線の画像を取得した。ターゲットのクエーサー周囲に映った星の画像を使って微小領域からの光の広がり方をモデル化し,それを差し引くことで空間的に広がった親銀河の光の成分のみを抽出した。
研究グループは,2つの波長での親銀河の明るさの情報から,HSC J2255+0251,HSC J2236+0032それぞれの銀河の重さが太陽の340億倍,1300億倍と推定した。これは同時代の銀河の中でも最も重たい部類となる。
さらに,JWSTの近赤外分光装置NIRSpecにより,今回の2天体のブラックホールは,重さが太陽の2億倍,14億倍と求めた。これらの観測結果は,銀河と巨大ブラックホールの関係が近傍宇宙と初期宇宙で大きく変わらないことを示しているという。
これは近傍宇宙で知られる銀河と巨大ブラックホールとの密接な相関関係の起源を探る上で,非常に重要な成果。研究グループは,世界有数の広視野探査能力を誇るすばる望遠鏡と世界最先端のJWSTの強力な組み合わせによって実現した成果だとしている。