東工大,高性能蛍光体の特異な構造の生成機構を解明

東京工業大学の研究グループは,室温でヨウ化セシウム(CsI)とヨウ化銅(CuI)の粉末を混ぜるだけで,高効率で青色発光する蛍光体Cs3Cu2I5が生成することを見出し,この現象を利用して良質な薄膜の室温形成に成功した。さらに,高効率発光の起源となっている銅イオン周囲の特異な構造の生成の機構を解明した(ニュースリリース)。

Cs3Cu2I5(以降CCI)は2018年に研究グループが見出した青色蛍光体で,有毒な元素を含まず,発光の量子効率が90%を超え,化学的にも安定という特長を有する。そのため,フォトディテクター・シンチレーター・青色EL素子用途への応用で近年注目されている。

これらの特性は,結晶中の銅イオンがCuI3三角形と CuI4四面体が結合した[Cu2I5]3−二量体の発光中心がセシウムイオンによって孤立している特異な構造が起源。

しかし,このような特異な銅イオンの構造はこれまで例がなく,なぜこの構造が安定に生成するか不明であったことが,材料開発の発展を妨げてきた。

今回,この材料系は室温でも固相反応が促進されることを発見し,高品質な薄膜合成に成功した。また,反応メカニズムの解明過程で,課題であった結晶構造がヨウ化セシウム(CsI)結晶中の隙間に由来することを見出し,今後の新規発光材料の設計指針を示した。

CCIは大気中でも劣化しない高性能な青色蛍光体であり,シンチレーターや青色発光ELデバイスに向けて動き出し始めている。今回の研究によりCCIを発光層として用いる青色EL素子の性能向上につながるという。

また,特異な発光中心の構造を持つ化合物の設計指針は,暖色系の白色光を作るのに必須な高輝度赤色蛍光体の創製にも貢献できるとしている。

今回,ありふれた結晶構造であるCsCl型の構造中の負に帯電した隙間を,イオン半径の小さなCu+イオンが占めることによってCCIのようなユニークな結晶構造と,構造に起因した高効率な発光を得られることを明らかにした。

これまで,結晶中に普遍的に存在する隙間は,機能の発現には積極的には関与しないと考えられていた。しかし,最近では隙間の電子がアニオンとしてふるまう電子化物(エレクトライド)の機能の発現や,隙間の不純物がドーパントとしてふるまう半導体の化学ドーピングを可能とすることが明らかになりつつある。

今回,発光イオンが拡散してその位置を占有することで,通常では見られない構造を安定化し,特異的な発光特性を実現していることを明らかにした。研究グループは今後,結晶内の「隙間」を積極的に活用することが,新規機能材料の設計の指針となっていくとしている。

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