立命館大学と福田結晶技術研究所は,分子線エピタキシー法を用いてScAlMgO4(SAM)基板上GaNテンプレートの開発に成功した(ニュースリリース)。
高輝度・省エネ・長寿命照明用LEDなどのデバイスを製造するために必要な窒化ガリウム(GaN)薄膜は,基板材料との格子定数差・熱膨張係数差が大きく,GaN中に欠陥が導入されてしまう。
SAM基板は,GaNと格子不整合が約1.8%と小さく,In組成が17%のInGaNと格子整合する特長がある。福田結晶技術研究所では,チョクラルスキー法を用いた高品質SAMバルク単結晶育成を可能にした。また,SAM基板は強い劈開性を示すため,成長後の自然剥離によるGaN自立基板作製や,剥離後にSAM基板の再利用が可能なことも実証されている。
このような背景から,SAM基板上への窒化物半導体結晶成長が注目されている。有機金属気相成長法などを用いたGaN成長では,SAM基板が1000℃近い高温状態に曝されるため,SAM基板の表面荒れや不純物混入が懸念され,バッファ層など中間層の導入が必要とされていた。
そこで研究グループは,超高真空中で比較的低温でのGaN成長が可能な分子線エピタキシー法に注目。結晶成長温度,原料供給比,成長初期過程などの成長パラメーターを最適化することで,SAM単結晶基板上へ中間層などを用いずにGaN単結晶薄膜を直接成長することに成功した。
さらに,GaNがSAM基板上に原子レベルで急峻な界面を形成して成長していることを確認した他,直径2インチおよび65mmのSAM基板上にGaN薄膜を均一に成膜することも可能とし,剥離・再利用が可能な窒化物半導体成長用テンプレート基板としての利用が期待されるとする。
研究グループは,このSAM基板上MBE成長GaN薄膜をテンプレートとして評価用テストウエハー供給を開始する。また,SAM基板に格子整合するInGaNについても2インチSAM基板上テンプレート開発に着手した。
作製したSAM基板上GaNテンプレートは,HVPE法などによりGaN厚膜成長を行なえる。SAM基板の劈開性を活かしたGaN厚膜自然剥離や剥離後SAM下地基板の再利用によって,パワーデバイス応用自立GaN基板作製のプロセス簡素化,歩留まり向上,コスト低減につながることが期待されるという。
またこの成果を活用して,格子整合するInGaNをSAM基板上に直接成長することで欠陥の少ない高品質InGaNテンプレートが実現できれば,緑・赤色領域のInGaN系窒化物半導体発光デバイスの発光効率が向上でき,フルカラーマイクロLEDディスプレーなどへの応用も期待されるとしている。